Ra Interlude Ar
よりた いと
- Prologue -
ずっと、不思議だった。
「ねえねえ、3組の潮田さん、陸先輩と付き合ってるらしいよ」
「え! えっ、あの野球部の人?」
「そうそう! 海斗くんのお兄ちゃんでさ、前からうちらかっこいいって言ってたよね」
「言ってたぁ! え、いつから?」
「それは分かんないけど、昨日一緒に帰ってるの見たって。さっき茜ちゃんが」
ずっと不思議でたまらなかった。
「ええ陸先輩かあ、いいなあ。かっこいいし、3年生でしょ? 超オトナじゃん!」
朝のホームルームが終わり、授業が始まるまでのほんの5分の間。
ざわついた教室内でもそれなりに目立つ声でキャッキャと笑い合う隣の席の2人を尻目に、私は窓際で頬杖をつきながらぼーっと雨を見上げていた。
「ねえ、
唐突に話を振られて、窓の外に向けていた体がビクンと揺れる。
「え、……私?」
「やっぱりさ、付き合うなら年上がいいよね」
ねー! と顔を見合わせて笑う2人に、分からない、と心の底から首を傾げる。
誰と誰が付き合っている、という話に興奮するのも、誰かと付き合うという話を我が身に置き換えられる想像力も、年上が良いという感覚も。
分からないけれど、ここで「うんうん、分かる!」と笑って返すことが最適解なのだろうということだけは、分かる。
そう頭では分かっていても表情筋がうまく追いついてこない不完全な私は、無理に笑顔を作って「そう、なのかな?」と曖昧に返すことが精一杯だった。
「でも亜湖ちゃん、落ち着いてて大人っぽいから2個上ぐらいじゃ物足りない?」
「ああ確かにね、高校生とかでもいけるんじゃない?」
「えー、高校生は大人すぎるでしょ」
「2個上より年上だったら高校生になるじゃん」
「あ、そっか! あはっ、ほんとだ」
手足を大きく動かして全身で感情を表現する2人が、私にはとても眩しく見える。そして本人を抜きにどんどん進んでいく話に、ただ苦笑するしかない。
そもそも、落ち着いていて大人っぽいという評価が間違っている。人よりぼんやりとしていて、鈍いだけ。
それだけでも訂正しようと「私、別にそんな――」と口を開きかけたところで、ガラリと教室の扉が開いた。
「時間だぞー。教科書出してるかー」
そう言って国語担当の先生が入ってきたから、強制的にプチ女子会はお開きとなった。
「よし、じゃあ授業始めるぞ。梅雨でじめっとするけど、気分上げてがんばろうな」
そのひとことで、日直が起立の合図をかける。ガタガタと椅子を揺らして立ち上がりながら、私はまた窓の外に目を向けた。
中学生になってから、誰それが付き合っているとか、実は憧れの先輩がいて、とか。そういう話が一気に増えた。
つい数ヶ月前まではランドセルを背負って、昨日の夜のテレビの話とか、アニメのキャラがどうとか、今流行りの歌とか、そんなことばかり話して笑っていたのに。正直今は私には全く分からない内容ばかりで、相槌を打つのに必死だ。
同じ小学校から上がった子も同じクラスに半分以上いて、これまでの延長線上にあるはずの生活なのに。
着る制服が変わり、持つ鞄が変わり、肩書きが変わっただけで、急にみんなが遠くにいってしまったように感じる。
窓の向こうでは、梅雨のじっとりと重たい灰色が空を覆っていた。
反射して映る教室に、各々黒板や手元などを見つめる同級生たちが映る。
小学校からずっと一緒だった子たちの顔が、みんな知らない人に見えた。
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