ひるがえるてのひら




 あまりのクヒヤのヤンデレぶりに、ぷるぷるして抱きあうルティと両親が不憫になったらしい。


 カティがあまえるように、ちょこんとクヒヤの袖を引いた。


「たまの里帰りくらい、ゆるしてほしいな。一緒に帰ろう、クヒヤ♡」


 きゅるきゅるぴんくの瞳に見あげられたクヒヤが瞬いて、さきほどのおどろおどろしさが幻だったかのように、爽やかに微笑んだ。


「あ、ああ、そういう意味か。ごめんね、カティ。カティを奪われるかと思うとちょっと暴走しちゃって」


 ドン引くのかと思ったカティは、うっとりしてる……!



「そういうクヒヤ大すき♡ クヒヤの愛に包まれてる感じがする♡」


「カティ♡」


 ぎゅうぎゅうカティを抱きしめたクヒヤが、とろけるように微笑んだ。



「かわいすぎるカティを追いかけて有象無象が来そうだから、しっかり国境封鎖するからね」


 イイ笑顔だ!



「絶対、カティを守るから」


 カティの細い腰を抱きよせるクヒヤの目が、本気すぎてこわい。



「クヒヤ♡ だいすき♡」


 そんなクヒヤを見あげるカティの瞳が、うっとりしてる……!




 …………………………。



 ルティと両親は顔をみあわせて、こっくりうなずいた。



 心配しなくても、ふたりでめちゃくちゃしあわせになってくれそうです。


 よかった!


 と思うよ。心配だけど!


 ものすごく、心配だけど……!








「元気でね……!」


「しあわせに……!」


 カティの乗った白い馬車が見えなくなるまで、ずっと、ずっと、ルティは手をふった。


 生まれる前からずっと一緒だったカティと離れるのは、身を裂かれるようにさみしくても、それでもカティがしあわせになってくれるなら、ルティもしあわせなはずだった。


 遠くから、カティのさいわいを祈って、しずかにトトと暮らすはずだったのに。



「カティは!?」


「カティがいない!」


「カティ──!」


 大恐慌が沸き起こった。


 下町も、ココ王立学園も、天変地異が起きたみたいに。



「よかった、カティ、いなくなるなんて、嘘だよね」


「ああ、カティ! いた!」


「カティ──!」


 駆け寄ってくる、きらきら攻略対象たちに潰されそうになったのは、ルティだ。



「ちがう、俺はルティだ! カティじゃない!」



 叫んだら、皆が眉をしかめる。



「カティは!?」


「どこに行ったんだ!?」


 血走った目で、唾を飛ばして、がなられた。


 叫ぶ圧に、あまりの必死さに、ルティの指が、わずかにふるえる。



「……トロテ王国に。クヒヤ殿下と伴侶になるそうです」


 事実を告げたら、誰もが衝撃に固まった。


 さらさらと崩れ落ちてゆく皆が膝をつく。



「そんな、カティ……!」


「僕を置いてゆくなんて……!」


「今からでも追いかけよう──!」


 皆が一斉に立ちあがるので、ルティは告げる。



「……というのを察したらしいクヒヤ殿下が、国境を封鎖すると仰っていました……」


 とてもイイ笑顔で。



「そんな──!」


 泣き崩れた皆が、涙と鼻水の顔をあげる。



「……いるじゃないか、カティが、そこに……」



 皆の目が、ルティを向いた。


 とても、とても、厭な予感がする。




「だから俺はルティで、顔は同じでも中身は全然ちがう──」




「ああ、ルティ!」


「今まできみの魅力に気づかなかったなんて、俺はなんてあんぽんたんだったんだ!」


「一生大事にするよ、ルティ」




 すんごい掌返し、きた…………!








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