第三十六話 結婚ごっことかおままごとかよ
この部屋は『結婚しないと出られない部屋』である。
昨日の出来事とおっさんの呟きのおかげで、ようやく俺は正解に辿り着いた。
それは嬉しい。
しかしながら、目下のところ一番大きな問題が一つ。
(さて――結婚ってどうやってできるんだ?)
結婚って、やろうと思ってできることではないよな。
なぜなら、お互いの気持ちが大切だからだ。いったいどこに俺を好きになるような女子がいるというのか。しかも結婚してくれる女の子なんて……!
(……ここにいるんだよなぁ)
なんでいるんだよ。
凛々子。お前はなぜ、自分の人生をそんなに軽く決定できるんだよ。
(都合が良すぎる気もするけど。まぁ、この部屋から出られるならいいのか)
この部屋での生活は平穏だ。
三年目になって、無理に出る必要はないと思えてしまうくらいには快適でもある。
むしろ部屋を出た方が不幸になるとまで思っていたので、積極的に出ようとしなかったのだが……しかし、おっさんが将来を約束してくれた以上、いつこの部屋を出てもいいわけだ。
(よし。結婚します、か)
後のことは、その時の俺が考えればいい。
今はとにかく結婚して、この部屋を出る。
そのために……えっと、プロポーズすればいいのか?
サクッと済ませてよう。
『そろそろ仕事に戻るよ。凛々子君、後は太田君と仲良くしていてくれ』
「はーい。ありがと、おじぴ! ばいばーい」
ちょうど、凛々子もおっさんとのお喋りが終わったみたいだし。
早速、プロポーズするか。
「凛々子。ちょっといいか?」
「んにゃ? どうしたん?」
いきなりのことなので、彼女を驚かせてしまうかもしれない。
でも、この部屋を出るためなのだ。申し訳ないが、早速プロポーズさせてもらうことに。
凛々子、結婚しよう!
「け、けけけけけこ……けこ。こ、こけっ」
「こけ?」
「……コケコッコー!」
「あはは! ニワトリのモノマネ? ぴっぴったら、つまんなくてかわいい♡」
うん。ダメだ。
冷静に考えると、ヘタレオタクがプロポーズなんて無理に決まっている。
言おうとしたが言葉が詰まって、結果的にニワトリになってしまっていた。別にモノマネのつもりではなかったのだが……そして、誤魔化して『へへへ』と誤魔化している自分が本当に情けない。俺はなんでこんなに哀れなんだろう。
と、自虐していても仕方ないわけで。
(落ち着け。作戦を変えよう……いきなりのプロポーズは無理だから『結婚してやってもいい』みたいな流れを作ればいい)
オタクは常に妄想ばかりしているので、変な作戦は結構思いつく。
俺の考えた案はこうだ。
【仕方ないなぁ。結婚するか大作戦】
1→昨日結婚しようって言ってたし、まずは結婚のシミュレーションをしようと提案する。
2→うまくいったところで「俺たち結婚してもうまくいきそうだな」と言う。
3→「仕方ないなぁ。結婚するか」で、晴れて夫婦となる。
……我ながら完璧な作戦だ!
「わたしの方がモノマネ上手だよ。ほら、こけこっこ~」
「そんなくだらないことはどうでもいい」
「くだらないって何!? ぴっぴからやってきたくせに!!」
下手くそなモノマネなんて後だ。
「凛々子……ほら、昨日お前が結婚しようって言ってたよな?」
「うゅ」
「でも、いきなりだと共同生活がうまくいくか分からない」
「え? 今の生活がきょーどーじゃないの?」
おい。気付くな。確かにそうなのだが……なんかめんどくさくなってきたので、ゴリ押すことにした。
「結婚生活がうまくいくか、シミュレーションしよう!」
「は? どゆこと?」
「俺が夫役をするから、凛々子はお嫁さん役になってくれ」
「……おままごとってこと?」
おままごとって言うな。まぁ、実際そうなんだけど。
ともあれ、凛々子も俺が何を言いたいのかようやく理解はしてくれたみたいだ。
「ん~。分かった、ひまだからいーよ!」
何せ俺達には無限の時間がある。
凛々子はノリがいいので、あっさりと了承してくれた。
と、いうことで。
俺たちは、そろそろ十八歳になるのに『おままごと』をすることになった――。
【あとがき】
お読みくださりありがとうございます!
もし続きが気になった方は、最新話からできる評価(☆☆☆)や感想などいただけると更新のモチベーションになります!
これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m
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