第三十話 価値観は周囲の人間に影響される
凛々子の金銭感覚がおかしいことが発覚した。
そのことにおっさんと俺がドン引きしていることに、彼女もようやく気付いたらしい。
「え? え? あ……マジのやつ?」
「うん。マジのやつ」
いつもの軽口や冗談ではないぞ。
ちゃんと、俺とおっさんは凛々子がやばい奴という印象を抱いていた。
『大田君。君からもちゃんと叱っておきなさい。甘やかして受け入れることだけが優しさではないよ』
どこかで聞いたことあるような二番煎じのセリフだが、正論でもある。
なんだかんだ、おっさんの言葉は凛々子に響いているように見えない。そしてこのままだと、将来において危ういのは……俺よりも、彼女の方であることは間違いない。
一緒に生活して、もう三年目だ。
仮に、俺と彼女の関係が破綻したとしても、不幸になってほしいとは決して思っていない。むしろ、俺がいなくなっても彼女には幸せになってほしい。
だからこそ、ここはあえて厳しく言うことにした。
「凛々子……その金銭感覚が許されるのは、パパ活女子だけだ」
「…………」
もしかしたら、ふてくされているのだろうか。
凛々子は何も言わずに、無表情で俺を見ている。不機嫌そうにも見えて、少し腰が引けた。
お、怒るのって、あんまり慣れてないんだよなぁ。他人に怒ったことなんてまったくないのだから当然だ。
だけど、ここは心を鬼にしてでも言うべきだ。
「若いうちはいいかもしれない。凛々子はかわいいから、きっとみんな優しくしてくれると思う。でも、人生は若くない方の期間が長いぞ? 凛々子が年を重ねた時、同じような生き方ができると思うか?」
「…………」
「パパ活女子たちが、年を重ねてどうなっていくか……もしかしたら、俺よりも凛々子の方が分かっているんじゃないか?」
まぁ、正直なところ俺も知らないけど。
そういえばパパ活女子ってどうなっていくだろう。パパと結婚か、あるいはイケメンのホストとかとゴールインするのか、あるいは……うーん、あんまり想像できないから分からん。
ともあれ、このままだと凛々子の末路は悲惨なことになりかねないぞ。
そう指摘して、俺は口を閉ざした。
さて、彼女はどんな返答をするのだろうか。
「――ぴっぴは嫌い?」
「『嫌い』じゃなくて『合わない』だろうな。今はおっさんの金だから何も思わないし、むしろざまぁと思ってるけど」
『こら。許容したダメだよ。ちゃんと言いなさい』
「だって本音だし」
『やれやれ……まぁ、30万なんてはした金だから構わないけどね。私の資産は君たちの想像の千倍はあるよ』
「金持ってるだけのカスが」
『ははは。貧乏人はよく吠えるねぇ』
ふぅ……凛々子のリアクションが芳しくないので、おっさんとの会話に逃げてしまう自分がいた。
俺の本音を聞いても、彼女のリアクションは薄い。ただ、何か考え込むように虚空をジッと見つめていた。
数秒ほど、だろうか。
彼女は何も言わなかったのだが……ようやく、重い口を開いた。
「分かった。好きぴがそう言うなら、気を付ける」
「……凛々子が俺の言うことを聞いた、だと!?」
初めてかもしれない。
彼女は基本的に、俺が注意しても聞き入れてくれない。なぜなら、俺のことを舐め腐っているから。
今回も、半ば無理だろうなと思いつつの指摘だったのだが。
「だって……ぴっぴがマジで引いてたし」
どうやら、俺の表情を見て色々と察したようだ。
今回ばかりは、本気で関係性に変化を与えかねない。そう感じ取ったのかもしれない。
「ぴっぴに嫌われるくらいなら、お洋服はちょっと我慢する。でも、おじぴに相談して許可をもらったらいいんだよね?」
「……そうだな。事前にちゃんと聞くならいいんじゃないか? どうせおっさんの金だしな」
『遠慮してほしいものだがね。まぁ、相談してくれるなら多少はマシか』
そんな感じで、凛々子の金銭感覚については話がまとまった。
……やっぱりこいつって、素直だな。
(俺に嫌われるくらいなら、か)
改めて思う。凛々子は周囲の環境や人間に影響を受けやすい人間だ、と。
もしかしたら、今までは周囲に金銭感覚の荒い人が多かったのかもしれない。
そのせいで、彼女自身もお金に関する価値観がズレていたのだろうか。
もしそうだとするなら、ちゃんとした人が隣にいればいいということだ。
もちろん、俺ではない人間だとしても。
その人がまともであれば、凛々子は大丈夫。
そう考えると、少し安堵した。
良かった。これなら、凛々子がお金で破滅することもないだろう――。
【あとがき】
お読みくださりありがとうございます!
もし続きが気になった方は、最新話からできる評価(☆☆☆)や感想などいただけると更新のモチベーションになります!
これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます