地雷系ヒロインと『〇〇しないと出られない部屋』に閉じ込められて三年目 ~もう限界かもしれない~

八神鏡@ようあま2巻&霜月さん1~5

プロローグ 〇〇しないと出らない部屋に地雷系女子と閉じ込められた

 ――目が覚めると、知らない天井だった。

 おんぼろアパートの黄ばんだ天井ではない。シャンデリアの光を反射する、眩しい真っ白な天井である。


「……!? ど、どういうことだ!」


 慌てて飛び起きて、周囲を見渡した。

 広すぎる部屋には豪華な家具が設置されていて、しかもトイレや浴室……キッチンもあるのか。まるでワンルームの家みたいだ。


 壁には畳一枚分ほどの巨大なモニターが埋め込まれている。いったい何をする部屋なんだ?

 ホテル、と呼ぶには設備が整いすぎている気がした。


 まぁ、この部屋のことよりも、意味不明なものがまだあるのだが。


「……お前は誰なんだ」


 キングサイズのベッドに、俺の隣で女の子が寝ていた。

 フリルがたくさんある洋服とスカートは、どちらもピンク色である。ツインテールを結んでいるリボンまでピンク色だった。


 これは、地雷系ってやつか?


「んにゃ……」


 彼女はすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。

 なんだこの状況は……昨日は家で普通に寝たはずなのに、なんでこんなことになってるんだ!?


 混乱して、思わず頭を抱えてしまったその時。

 モニターがチカッと光った。


『――おはよう。お目覚めかね?』


 映し出されたのは、スーツ姿の男性である。長机に肘を置いて座っている……それだけなら普通なのだが、仮面をかぶっているおかげで怪しい雰囲気が強く出ていた。


 白髪交じりの髪の毛と声の抑揚を考えると、年齢は初老くらい。口元が露出するタイプの仮面なので表情は分かるが、目元が隠れていて不気味だ。


『おや? 少女の方はまだ眠っているようだね』


 このおっさん、こっちが見えているのか?

 ハッとしてモニターを注視すると、小型のカメラのようなものを見つけた。


 どうやら、監視されているらしい。


「……あんたが、俺たちをこの部屋に連れてきたのか?」


『ああ。そうだよ』


「いったいなぜ?」


『その理由は――おっと、タイミングがいいね』


 おっさんが俺の隣を見て何やら頷いている。つられるようにそちらを見ると……起きていた。


「ふわぁ……んにゃ? だれ???」


 彼女は俺を見て不思議そうに首をかしげている。

 モニターの怪しいおっさんにはまだ気付いていないらしい。俺を見つめてきょとんとしていた。


「え? ウソ、やだっ。わたし、お持ち帰りされてる!? こんな地味顔男子に……!」


「してない! 勘違いするなよ、俺は何もしてないからな」


 状況的に疑う気持ちも分かるが、今はそれどころじゃない。

 彼女はちゃんと理解しているのだろうか。


 今、俺たちが『誘拐』されているという事実に。


「え? こんなにかわいい子に何もしないわけなくない?」


 ……分かってないんだろうなぁ。

 シリアスな俺と比べて、彼女はコミカルだった。手を出してないのに怒られる意味が分からない。


「こう見えて結構大きいし」


「何の話だ!」


「ねぇ、ウソつくのやめたら? わたし、別に怒らないけど」


 くそ。この状況について説明したいのに……この子の性格が思ったよりもあれだ。軽かった。

 シリアスになるのは難しそうである。


 どう言えば分かってもらえるのか。悩んでいると、まさかの方向から助け舟が出た。


『安心したまえ。彼は君に手を出していないよ』


 モニター越しに、仮面のおっさんが話に割って入ってくる。

 そこでようやく、彼女もおっさんの存在に気付いたらしい。


「うわっ。どゆこと!? ねぇねぇ、あのおじさんってだれ?」


「……俺も分からん」


「てか、ここってどこ?」


「それも知らん」


「あのさ……なんでこの部屋、外に行く扉がないの?」


「――え!?」


 言われて、気付いた。

 確かにない。トイレや浴室に繋がる扉はあるが、そのどちらもなぜかガラス張りである。


 外に行けそうな扉は、どこにも存在しなかった。


「どういうことだよ、おっさん! そろそろ説明してくれっ」


『……いいだろう。彼女も起きたことだし、そろそろ説明してあげようか』


 おっさんがニヤリと笑った。

 そして、放たれた一言に俺は自分の耳を疑った。






『君たち二人は――〇〇しないと出られない部屋に閉じ込められている』






 ……はぁ?

 な、なにを言ってるんだこのおっさんは。


 〇〇ってなんだ?

 ちなみに、これは伏字じゃない。このおっさんは『まるまる』とハッキリ発音している。


「〇〇って、何のことだよ」


「……何だと思う?」


 更にニヤリと、気持ち悪い笑みを浮かべるおっさん。

 まるで、実験動物の反応を見ているようなリアクションで、すごく不快だった。


 俺たちはいったい、これからどうなってしまうんだ――。







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