第6話




 川のほとりでとった休憩は、昼休憩の予定だったが、村人達の疲労が想定よりも高く、このまま王都に向けての移動は不可能と判断され、本格的に野営をする事となった。


 恐らくだが、シュヒト・コウという主人公のシナリオの最初は、勇者の力に目覚め、魔族との戦闘で無茶をした結果数日意識を失い、気がついたら王都まで運ばれていた……というものなのだろう。

 

 その結果、シュヒト以外の生き残った村人達は、魔族の襲撃によって家族が死んで1日も経っていないうちに故郷を捨てる、というしわ寄せが来ている。

 しわ寄せは言い方が悪いから、ちょっとした裏話的なものというか……なんにせよ、基本的にシナリオは主人公やその関係者……つまり主要人物以外の事情なんかは考慮してくれない。

 そのせいで、村人達の精神的ダメージは計り知れないし、ほとんどの村人はファステ村から出た事も無いので、慣れない環境に適応出来ないのも仕方がない。

 

 俺のように、家族が死のうが、その事実を消し去ったとはいえ自分が殺されようが、ほぼ気にしない程の精神の図太さがあればいいのだが……。


「……つまり、空気の通り道を確保すると同時に、燃えやすい物を敷き詰めるスペースを作ってそこに火種、って事ですね」

「そうそう。慣れないうちは細い枝とツタを使って、薪を固定するのもいいかもな」


 そう言って聖光教所属の騎士の1人、特に俺のことを気にかけてくれているキシィーチさんが、俺の見本になるように薪を組んでいく。

 日が高いころから野営が決まり、明日まで時間がある。そこで俺はこのキシィーチさんに焚火のコツなどのサバイバルで役立つことを教わっていた。


 冒険者を目指すのなら、こういった十分な設備のない状態での野営なんかは、何度も繰り返すこととなるだろう。その為の備えとして、この場で出来るような事を教えてもらっている。

 ヒルデさんを始めとした騎士達は、俺が冒険者になろうとしていることを察したのか、色々なことを教えてくれる。やはり、俺のような年代の子が魔物や魔族に襲われた後は、力を求めて冒険者になろうとすることは定番らしい。それが一番手っ取り早いもんな。


「エイモヴは〈生活魔法〉を使えるか?」

「ええ、っと、多分?……母が使っているのは見たことありますけど、実際に自分で使ったことは……」


 嘘です。せっかく〈生活魔法〉について教えてもらえそうなのに、使えませんなんて言えないから、母が使っていたということをでっち上げて、急いで思考操作で【システム】を操作して、〈生活魔法〉を取得しました。本当なら使えません。

 取得条件でステータスのINTが8を要求されていたが、それをクリアしていて良かった……。


「そうか、じゃあ試してもいいかもな……〈生活魔法〉には《火花》という魔法がある。文字通り指先から火花を散らす程度の魔法だが、火種には十分だ。魔法の詠唱は必要なく、体内の魔力を意識しながら『火花』と名称を口に出すだけで発動する。慣れれば声に出さずとも発動出来るようになるぞ」


 キシィーチさんの伸びた人差し指から、パチパチと火花が散る。

 ……体内の魔力を意識、か。まだ魔力というものを認識したことはないが、試しに《火花》の魔法を唱えてみるが、俺の指先から、火花が散ることなかった。


 【システム】の力で〈生活魔法〉自体は取得している。才能がなく使えないということは無い。つまり、この体内の魔力を意識するということが、上手くできていない証拠。


「ううん……?」


 唸り声を上げながら俺が四苦八苦しているのを、キシィーチさんは笑って見守る。

 なんで記憶を取り戻す前の俺は、もしかしたら魔法の才能があるかもとか思って、研鑽を積まなかったんだ……まあ実際に才能は無かったから、やらなくて正解だったんだが……。


「ふふ、魔力の感知にはコツが要りますからね。私も最初は苦戦しました」

 

 聖女エリシア……おそらくシュヒトのヒロイン候補の1人が、護衛にヒルデさんを連れて、朗らかな笑みを浮かべて俺の元まで歩いてきた。


「おや、お転婆聖女様はやはりただ座っていられずに、出てきてしまいましたか」

「お転婆と言うのは止めてください!」


 エリシア様にキシィーチさんが軽言を言うが、エリシア様もヒルデさんもそれを咎めることはしない。気安い態度を見るに、どうやらこういうことは彼ら彼女らにとってに日常茶飯事らしい。

 どうしたんだろうと、内心で俺が首を傾げていると、エリシア様は地べたに座って焚火を起こそうとしていた俺に目線を合わせるために、地に膝を着く。


 咄嗟に止めようとするが、さらにエリシア様は〈生活魔法〉を発動しようとしていた俺の手を、両手で包むように掴む。


「今から私の魔力を、貴方の体に送り込みます。その感覚を感じていれば、おのずと自分の魔力も感知できるようになりますよ」


 エリシア様は微笑みながらそう言う。突然の事にぎょっとしながら、ヒルデさんやキシィーチさんに助けを求めるが、2人はただ笑うだけで何もしてくれない。

 そんなこんなしているうちに、エリシア様の俺の手を掴む手が淡く光る。じんわりと熱を感じるようなそれが、手を伝い、腕を伝い、俺の体に広がっていく。


「……ぉお……」


 小さく感嘆の声が漏れてしまうほど、エリシア様のおかげで簡単に自分の魔力を自覚出来てしまった。

 エリシア様のものと比べれば、なんとも頼りないほど弱々しいが……それでも魔法を使えるのには変わりないだろう。

 お礼を言おうと顔を上げると、エリシア様は今にも泣き出してしまいそうな、そんな顔で俺のことを見つめていた。


「なぜ、貴方は笑っていられるのですか?……私たちは間に合いませんでした。それによって魔族の襲撃で、ファステ村の人々は沢山亡くなってしまいました。貴方のご両親だって……お亡くなりになられたと聞きます。でも、でも貴方は他の方と違い、前向きに生きようとしている……それは何故?」


 ……え、急に重い話するやん。というか、こういうのって主人公相手にするものじゃないの?

 こう……最終決戦の前夜とかに、主人公になぜ笑えるのか、なぜそんな心が強く居られるのか……みたいな感じで聞いたりするやつじゃないの?これ。


 やばいなぁ……両親が死んだのも知り合いが死んだのも、そんなに気にしてないとか言えないからな……なんかそれっぼい事言っとけば良いかな?


「……別に悲しく無い訳でははありません。両親は燃える家の瓦礫に押しつぶされ、まともに弔う事出来ず、形見も手元にはないです」

「「「……っ」」」


 あ、やべ。余計なこと言ってめっちゃ悲しい境遇です、みたいになっちゃった。


「でも……でも俺が生きている今は、死んでしまった両親や村の人がもう二度と手に入らない未来でしょう?なのに、ずっと辛気臭い顔をしていたら……怒られちゃいますから」


 うーん……第三者から見た俺の境遇を合わせれば、結構良いこと言いてるみたいじゃないか?

 ちょっと悲し気な笑顔もプラスすれば、これはもうチーズインハンバーグにトッピングでさらにチーズ掛けるみたいな、贅沢セットですわ。


「それに間に合わなかったから村の人が死んだ……ではなく、魔族が村を襲ったから、ですよ。エリシア様があとほんの少し遅かったら、シュヒトだって魔族にやられてました。エリシア様達は間に合ったんです!他の人がなんと言おうが、現場を見ていた俺が言うんだから、間違いありません!」


 俺が最後にそう言うと、エリシア様は驚き、そして耐えていた涙が決壊する。だがそれは悲しさから流すものではなく、エリシア様は笑顔だった。


 はい、パーフェクトコミュニケーション。

『10点』『10点』『10点』……最高評価が出ました!これは新記録です!……なんつって。



 

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