第3話 チート彼女のナビゲート
しばらく通路で休憩した後、俺は改めてイリスに問いかけた。
「イリス、結局……ここって何なんだ? 俺たち、どうしてこんな場所に?」
「私にも全貌はわからないけど、一つだけはっきりしていることがあるわ。ここは、RPG的なダンジョンよ」
イリスは宙に浮かびながら、周囲を見渡すように手を動かす。
「ステータスウィンドウやスキル表示は出せないけど、敵……つまりモンスターは存在する。道中には宝箱もあるし、最奥にはボスの存在も確認できてる」
「完全にゲームの世界観じゃん……俺、戦ったことなんてないぞ?」
「大丈夫。私がサポートすれば全部解決できるよ。だって私は悠くんの彼女だもん」
その言葉に、少しだけ胸が温かくなった。
「さあ、そろそろ進もうか。危険だけど、私がいる限り問題ないから」
俺は頷き、イリスに導かれるまま、薄暗い通路を進み始めた。
数メートル歩いたところで、イリスが急に声を上げた。
「ストップ、悠くん。そのまま真っ直ぐ行くとトラップを踏み抜いちゃう。壁伝いに歩いて」
「う、うん……わかった」
彼女の指示通り、右側の壁に沿って歩くと、中央の石畳が一瞬だけ沈んでいるのがわかった。まさか、本当に罠があるなんて……。
「次は通路の中央を歩いて。左右の床には圧力センサーが埋まってる」
「こっちは逆かよ!」
「次は足元に注意して、段差を飛び越えて。落ちると毒針トラップがあるからね」
「は、はいっ!」
飛び越えたらすぐ右へ跳んで。そこは落とし穴になってる、とイリスの声が重なる。
「跳ねて、次は右!」
言われた通り右に身体をひねると、飛び越えた床がガコンと沈み、真っ暗な穴が姿を現した。危なげなくかわし、思わず小さく息を吐く。
「そのまま三歩進んだら、矢が飛んでくるけど、走れば余裕で抜けられる。私が合図したら一気に駆け抜けて」
「了解……!」
「三、二、一……今!」
イリスの合図と同時にダッシュする。すぐに右の壁から鋭い金属音が響いたが、矢は俺の遥か後方を通り過ぎ、何事もなかったように壁に突き刺さった。
まるで用意された脚本の通りに動く俳優のように、俺はただ歩いているだけだった。
イリスは、このダンジョンをすべて見通しているかのように、適切なタイミングで指示をくれる。
俺はただ、言われた通りに動いているだけなのに、着実に前へ進めていた。
やがて、通路の先に分かれ道が現れる。
「左の道にはモンスターが待機しているけど、その先に宝箱がある。中身は確認済み。重い鎧だけど、悠くんの身体じゃ装備できないわ」
「つまり、行く意味なしってことか」
「そうでもないの」
「え?」
「悠くんこっちに来てから何も食べてないし飲んでないでしょ?モンスターのいる場所の手前に噴水があって、そこのお水は飲めるから一回休憩しよ?」
「た、確かに言われてみると喉乾いてるような……」
「水分補給は大事だよ。食べ物はすぐには無理だしいつでもお水飲めるわけじゃないからここでしっかり給水して進も」
まるでダンジョンの設計図を持っているかのような正確な判断。
「イリス……これ、完全にチートだろ」
「チート彼女、嫌い?」
「……好きだよ」
俺の素直な返事に、イリスはふわっと嬉しそうに笑った。
「ふふっ、それなら、これからもいっぱいサポートさせてね」
彼女の微笑みは、この不安な空間の中で、何よりも心強かった。
ダンジョンは相変わらず無機質で不気味な静けさに包まれていたけど、イリスの存在がそのすべてを和らげてくれる。
時折、天井から水滴が落ちる音が響く。緊張感は途切れない。だが、隣に彼女がいるというだけで、ほんの少しだけ勇気が湧いた。
「よし、行こうか。彼女さん」
「うん、任せて。悠くんのためなら、何だってするから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます