葉山、師匠の言葉を思い出す。
姫の白くほっそりした手を握り、力を込めて――
ファイトォ――!!!
一発――!!!
決戦のプロポーズに向け、仕事終わりに飲んでいた、タウリン1グラム配合の栄養ドリンク。
まさかこんな場面で役に立つとは!
俺はタウリンパワーで全身に力を込め、懸命にすがってくる姫の華奢な体を引き上げる。姫は屋根に足が届くなり、俺の胸にふわりと飛び込んできた。
「……登れたわ! ハヤマさん、ありがとう!」
パァッと輝く笑顔に、ホッとひと息。
「とんでもない。姫、しっかり俺に捕まっていてください」
「はいっ!」
姫が背中に腕を回してきた。
肌に触れる絹のような髪、肌、甘い香り……
それに、嫌でも視界に入る姫の胸元。慎ましいが、そこがまた姫の可憐さを引き立てている。
あぁ、これが……姫……!
思わず唾を飲みこんだ。
俺はポケットの中の、素晴らしい石の存在を思い出していた。
――奈美へ。
浮気じゃないよ。これは立派な人助けです。
だが、そんなことを考えている暇はなく――
「姫ー! まさか外へ?!」
中から聞こえたドーツ兵たちの声に、姫の体がキュッと強張った。
そしてひとりのドーツ兵が窓から身を乗り出し、外をぐるぐる見回し始めた。俺と姫は息を止め、見つからないことを祈ったがーー
奴はすぐに上を見上げ、屋根にしがみつく俺たちに気がついた。
「ツエル姫! なにをしているんです! 危ないから降りてきてください!」
まぁ見つかるよな!!
思わず止めていた息を吐き出した。
ところで姫のお名前、ツエル姫らしい。
前に「ラプン」がつかなくてよかった。
権利関係、面倒くさそうだもんな。
※すでに色々とギリギリです
すると塔の上のツエル姫が、勇ましくもドーツ兵を怒鳴りつけた。
「部屋に上がり込むとは無礼な! 去りなさい! 私はあなた達の慰み者なぞにはなりません!」
30代くらいのそのドーツ兵の男は、とんでもないと首を振る。
「あなたに手は出しません! 決してそのようなことはしません! そんなことをしたら我々の首が飛びます! ……街にドラゴンが現れ、みな混乱しています。安全なところへお連れします!」
「行きません!」
「ならば……力づくでも連れて行きます!」
ドーツ兵が屋根に登ろうと、身を乗り出した。なんとしてでも姫を連れて行きたいらしい。
姫が、俺の背に回した細い腕に力を込めた。
「ハヤマさん……!!」
……今、このか弱き姫を守れるのは、俺だけだ。
「……大丈夫。俺のそばにいてください」
ツエル姫は連れて行かせない。俺が守る!
と思ったが、俺には何も武器がない。
世界を滅ぼす魔石か、エロエロ魔石しか持ってない。極端!
どうする? どうする?!
……いや。こういう時こそ……
『考えるな。感じろ』
イマジナリー師匠の言葉を思い出す。
――そう、感じる。
五感を研ぎ澄ますんだ。
「…………」
目を閉じる。耳を澄ます。
すると聞こえてきたのはーー。
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