第5話:異世界から届く依頼状。動き出す、コレクターの本領

異世界、商業都市レダンの朝。

 朝日が市場を照らす頃、俺はいつも通りギルドに足を運んだ。

 目的は素材の換金と、新しい収集エリアの確認――のはずだった。


 だが、ギルドのカウンターにいたなじみの商人・グラムが、いつになくそわそわしていた。


 「やっと来たかー。ほらよ、アキト。君宛ての依頼だよ」


 分厚い封筒をぽんと手渡してきた。

 表には俺の名前と、ギルドの高位印章。


 「珍しいな、俺個人宛ての依頼なんて」


 「しかも、王都の連中からだ。……内容は“素材収集の同行”って建前だけど、

  実際は“超危険地帯への案内と戦力”って話らしいぜ」


 「ふーん。場所は?」


 「黒鉄山脈の第七層。“未踏領域”ってやつだな。冒険者の消息も何件か切れてる場所さ」



 封を切ると、中には手書きの依頼書が一枚だけ入っていた。


 > 【依頼名:黒鉄山脈・第七層調査】

 > 内容:希少鉱石黒燐晶の採取、魔力干渉域の測定、同行者の保護

 > 報酬:上位素材提供、王都ギルド推薦枠

 > 特記:依頼者同行/危険地帯のため実力者限定


 「……つまり、“素材採取”と言いつつ、護衛兼案内ってことか」


 「うん。おまけに、依頼者本人も現場に同行するらしい。かなりの変わり者だとか。

  それでいて、ただの護衛じゃなく、素材の質まで求められるってんだから――まあ、普通は断る内容だ」



 俺は封筒を閉じ、静かに言った。


 「受けるよ」


 「はやっ!? いやいや、マジで言ってんのか? 命がけになるかもしれないんだぞ」


 「ちょうど興味があった場所だし、黒燐晶は手に入れにくい。

  それに、誰かと組むのも……そろそろ悪くないかなって」


 グラムは目を丸くしながら、ポーチから銀製のギルド印を取り出した。


 「じゃあ、正式に発注通すぞ。……やれやれ、お前ってやつは」



 異世界に来て、もう13年。

 コレクターというハズレジョブで、一人黙々と素材を拾い続けてきた。

 だが――今回の依頼は違う。


 初めて“他人と組む”。

 初めて“危険地帯に誰かを連れて行く”。

 そんな依頼だ。


 緊張してないか? と問われれば、たぶんしている。

 でも、それ以上に――俺の中の何かが動き始めていた。



 「さて……荷物、準備するか」


 異世界の空は今日も高く、遠く澄んでいた。

 俺はその下で、静かに歩き出す。

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