第8話 楽しい1日…そして。
東江さんが、泊まった次の日。
私たちは街で一番大きなショッピングモールに来ていた。
休日という事もあって、人が多すぎて眩暈がしそうになる。
…こんなキラキラした場所に私みたいな陰キャが来て良いところではない。
しかし…当の東江さんはというと。
「十さん!次はこの服着てみてください!」
華やかな笑顔で、次から次へと、私に似合うと言っていた服を持って来て、私を着せ替え人形にしていた。
次から次へと、煌びやかな服が私の元へ届けられる。
私は大丈夫だろうか。
死んだ目をしていないだろうか。
せっかく東江さんが楽しそうなのに、私だけ意気消沈して、雰囲気が盛り下がるのだけはやめたい。
だが…とにかく服の量が多かった。
変わる変わる、私は急いで更衣室で服を着替えては、表に出て、また服を着替える。
なんだ?何が起きている?
ていうか東江さんが持ってくる服、ちょっと可愛い系が多くないか?
私みたいな女に絶対似合わないだろう。凹む。
東江さんに付き添っている、店員さんも何故かニコニコして、東江さんと服の談義をしているが、私には何を言ってるのかさっぱりわからない。
「やっぱり、こちらのトップスの方が…」
「季節物でしたらこちらで…」
「この小物とか組み合わせてみたりしても良いですか!?」
「ええ!とても可愛らしくなられると思いますよ!しかし…私としては彼女にはカジュアルな方が…」
「良いですね!じゃあそっちもお願いします!」
ヒィヒィ言いながら、私は持ってくる服を着替える、
そして、なんかいつの間にか更衣室の周りには人だかりが出来ていた。
な、なんでこんなに人がいるんだ!?
私の格好を笑いに来たのか!?
そうに違いない!なんか私が出てくるたび、周りが盛り上がるし!
とにかく私は無表情を貫いた。
気を抜いたら、半べそをかきそうだけど、東江さんの為に必死で貫いた!
そう!女はこういう時、無表情を貫く物なのだ!多分!!
ーーーー
結局、あの後小一時間ほど、着せ替えられて、私は東江さんの持って来た服の中で、一番無難な物を選んで、店を出ていた。
備え付けのベンチに腰をかけて、項垂れる。
つ、疲れた…!
人生の中で1番の修羅場だったんじゃないか?
人の波に飲まれかけた事を思い出しゾッとする。
死ぬかと思った。凹む。
「十さん、大丈夫ですか?」
「う、うん…」
「す、すみません、ちょっとはしゃぎすぎちゃいましたね」
「…大丈夫だよ、私も楽しかったし」
嘘である。
嘘ではあるが、まあ東江さんとお出かけしているのは楽しいし、半分ほんとだ。
しかし、人と接するのってこんなに楽しかったのか。
頑なに関わりを避けてはいたが、もうちょっとクラスメイトに話しかけても良いのかも知れない。
それに将来の事を思えば、マジで喋れなくなるのはごめんだ。
頑張ろう。
「十さん!お洋服以外のお店まわりませんか?」
「う、うん、行こうか」
少し体力も回復して来た事だし。
こうして私たちは一緒にショッピングを楽しむのだった。
二人で買った、クレープとか美味しい。
これがクリームというやつか…。
人生で初めて食べた。
甘いものって美味しいんだな。
「十さん!こっちも美味しいですよ!」
東江さんがいちごクレープを差し出してくる。
これは…私にあーんをさせようとしている…?
嘘だろ。
こんなイベントあって良いのか?
CEROに引っかからない?
恐る恐る、差し出してくれたクレープに口をつける。
いちごの酸味と甘いクリームがいい感じにマッチしてて美味しかった。
それに、東江さんが食べさせてくれたという事実だけで、何倍にも膨れ上がりそうだ。
それにこれは間接キッスというやつなのではないか。
私は関節を決めた事しかないが、間接は初めてだ。
フィクションみたいな事って本当にあるんだな。
「十さんのクレープもいただきです!」
私が持っていた、バナナクレープに東江さんがパクッと齧り付く。
前で持ってたので、急に東江さんのちっさな頭が私の胸元に来て、焦った。
ぎゃあああああ!可愛い!何これ!!
え?私どうなるの?死ぬの?
この後、何か起こらない…?
しかし、なんか雰囲気が妙だ。
友達と遊ぶってこんな感じなの?
これ、デートって奴じゃないの?
この距離感が正解なの!?
助けて〜〜〜〜詳しい人〜〜〜。
ーーーー
クレープを食べた後、私たちは雑貨屋に来ていた。
なんかペンダントとか色々あって、小物系が豊富である。
あ、この猫のぬいぐるみ可愛い。
「十さん、私買いたいものがあるんです」
「……何を買うの?」
東江さんがニコニコしながら、とあるペンダントを差し出す。
猫が二匹で丸まっているペンダントだ、かわいい。
「十さん、そのぬいぐるみ、猫好きなんですよね?」
「うん…好き」
「良かった…これって二匹で包まってるじゃないですか、でもこうすると」
東江さんが包まっていた猫を外す。
すると別々に分かれて、二組のペンダントになった。
これはあれか…ペアペンダントというやつか。
あのカップルでよくつけてる。
「私達、友達になったじゃないですか、それにこれから一緒に戦う仲間にも」
友達になったんだ、初耳である。
人生初の友達だ、東江さんとなれて嬉しいな。
私が少し浮き足立っていると東江さんが話を進める。
「だから…二人でこれからも一緒に頑張りましょうって意味で…それに、これを付けてると、いざって時に十さんが側に居てくれる感じがして、嬉しいなって思ったんです!」
「……そうだね」
「だから、一組ずつ持って、この日という幸せな時間を思い出にしたいんです!」
東江さんが眩しく、私に笑顔を振り撒く。
そうか、幸せか。
これまで、考えた事もなかったな。
私は一人でいるのが好きだし、それを苦に思ったことはない。
でも、こうして東江さんと遊ぶ1日が過ぎていくのは、少し寂しい。
こんな気持ちが私にあったなんて…。
確かに、ふと寂しくなった時とか、このペンダントを見ていれば、東江さんの事を思い出して、楽しい気持ちになれるはずだ。
だって、今、とても楽しいんだから。
「そうだね、買おうか」
「はい!」
お母さん、私、友達ができたよ。
ーーーー
こうして、楽しい1日が過ぎ、東江さんと一緒に帰っていた時だった。
「…?何か声がしませんか?」
東江さんが急に通りがかった路地に耳を傾ける。
私も、耳を澄ましてみたら、確かに奥から「うぅ…」という苦しそうな音が聞こえた。
「もしかしたら…誰か怪人に襲われてるのかも…!気配に気づけないなんて…!」
「行こうか」
確かに私も、あの怪人の独特な気配を感じなかった。
あのオーラはあれだけの力を持っていれば、嫌でも気づく筈。
ともなれば、気配を完全に消すことができる、実力者がいるという事。
私でも難しい技術を扱えるということは、警戒した方が良さそうだ。
こうして、二人で路地に入り奥へと進み、声の正体を見た。
「………お腹……すいた……」
いつかのボンテージ姿の変態が、うつ伏せで腹を盛大に鳴らしながら、大の字で無様な格好を晒していたのだった。
楽しい1日が一気に汚されたような気がする。
……見なかったことにできないかな、これ。
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