第50話 ももと君
女神の問い
一つ目
“ももが鬼をたおしたときに共にいたのは、いぬ、さる、あとは何?”
二つ目
“君が代は 千代に八千代に さざれ石の 何になった?”
⸻
「……は?」
思わず声が漏れた。
拍子抜けというか、呆れるというか。
「でしょ? 僕も、何回読んでもさっぱり」
「”もも”って果物のことだと思うんだけど、鬼を倒したって何の比喩?犬と猿と倒した?
なら、もっと強い動物とか...タイガーとか、クマとか?ベオウルフとか?」
マーヤの独り言のような言葉に村長が反応する
「クマもタイガーも試し済みですね。
ただ、ベオウルフは今までに無い、良い線ですね!魔物って可能性はいままで試して無いです」
「でも、確実っていう自信は持てそうも無いんだよねぇ」
お手上げといった感じでマーヤが両手を広げる。
「2問目はもう、さっぱり!
何の暗号?きみのだい?せんだいにはちせんだい!?」
「“きじ”と“いわお”じゃないの?」
凛人が何気なく答えると、村長とマーヤが同時に固まった。
「……え」
「おわかりになるのですか!?」
「知ってるの!?」
二人の反応に、凛人の方が戸惑う。
「いやいや、一問目は桃太郎でしょ。犬と猿ときたら雉だって。二問目は君が代、“さざれ石のいわおとなりて”だから“いわお”。」
「ももたろうってなに??きみがよ???」
村長が慌てて記録を確認する。
「……この答えは、これまで誰も入力しておりません!」
「そうかぁ……」
凛人は顎に手を当てた。
(この世界に桃太郎も君が代もないのか。そりゃ誰も解けないわけだ)
「その答え、真に確かなのでございますか!?」
村長の声が震える。
「多分な。この問題、答えがぶれないようになってるし」
凛人が淡々と返すと、マーヤは急にキラキラした目で彼を見た。
「何で”きじ”なの!?」
「これは俺の世界の昔話、というか童話。
桃太郎っていう勇者みたいなのが、犬と猿と雉をキビ団子あげるからっておそろしい鬼の退治に連れてく話」
「なにそれ......きび団子ってのは心を支配する薬か何かなの?」
「昔の話だからな。コンプライアンスもパワハラもあったもんじゃないのさ」
「よ、よくわからないけど、リントの世界のお話なんだね!!」
「こっちでは桃太郎の話広がってないんだよな?
そういう意味じゃ、オレの元いた世界の昔話だよ」
「じゃあやってみようよ!」
「ちょっと待て、本当に間違った人全員死んでんの?」
「作用でございます!」
「確かに死んでるみたいだね。全員老衰で。」
「は?」
「最後にこの問いに挑んだのはもう60年近く前だよ。寿命、寿命!むしろ不慮の事故とかじゃないし!長生きした方!」
マーヤが手をぶらぶらさせながら言う。
「それでも!
最後に挑んだ方は、なくなる1ヶ月前に奥様に不倫がバレてから亡くなっております!!それまで、長い間バレずにいたのに......!」
村長は必死だ。
(そんな不穏な死に方は確かに避けたいな......)
「大丈夫!大丈夫!!
僕なら不倫ぐらい許してあげる!」
一瞬真顔になった凛人だが、
「おいおい、あんまりオッサンを、揶揄うんじゃあねぇよ」
ギリギリ何とか取り繕うことができた。
だが、
(どういう意味?......)
(......ドーユーイミデスカー!!)
と、心の中の丘に立ち、空に向かって全力で叫んでいた。
胸の奥がザワザワして仕方ない。
(……こ、これは別にやましいとかではなくてですな……その、こんな年下の子に揶揄われて大人だから焦ると申しますか……いや、違う、そうじゃないんでござる……というかマーヤさんは不倫とか気にしないタイプですか?そうですか?)
頭の中で、言い訳じみた言葉がグルグル回り続ける。
そんな凛人の動揺を、マーヤは口元を押さえつつ、楽しげにニヤニヤと見つめている。
「……っ!」
凛人は慌てて咳払いをひとつし、話題を切り替えるように顔をそむけた。
全然取り繕えてなかった......深入りすまいと決めたのだ。
にしても、今までも散々揶揄われてきたが、この手の揶揄われ方までするとは予想してなかった......
気を取り直し、凛人が答えを入力しようと一歩踏み出すと――
「ま、待ってください! 心の準備が!」
村長の制止を、マーヤがあっさり無視した。
凛人の腕をぐいと掴み、ずるずると扉の前まで引っ張っていく。
「大丈夫。責任は僕が取るから」
凛人は苦笑しつつダイヤルに手をかけ、表を確認しながら慎重に回す。
右に四回でリセット。
左に二回で「か」行、右に二回で「き」。
次に左に五回で「ざ」行、右に二回で「じ」。
息を整え、ハンドルをゆっくり押し下げる。
カチリ、と内部の錠が外れる手応えが伝わった瞬間――
ガチャン——!
重々しい音とともに扉がゆっくりと開いていく。
中から、目を焼くような強烈な光が溢れ出した。
「なっ……!」
村長が声を詰まらせる。
マーヤも手で顔を庇いながら、興奮を隠しきれない。
凛人は眩しさに目を細めた。
——この先にあるものは、一体……。
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