5 魔王の海賊団

第18話 迫りかけた影

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 そして、アルフレッドもまた気づいていないことが一つあった。


 時はアルフレッド一味の船が姿を消した後の、WoAの船上でのこと――。



 陸地の見えない海で彷徨っていた彼らは、また別の海賊団から襲撃を受けていた。


「やはりこの程度か、もはや失望もない。くだらんことに、これだけの人間が関わっているとはなァ。呆れるのも心底くだらん」


 灰色の髪を海風に揺らしながら、一人の若い男が呆れ笑いを含めた低音を吐く。


 一歩、また一歩と彼の茶色いブーツが足音を鳴らす度に、まとめて座らされたWoAの構成員らの空気に緊張が走っていた。


「さァ、早く選べ。自らついてくる者以外は必要ない。このまま海の藻屑にでもなればいい」


 荒々しくも気品を備えた男の声色を浴び、凍てつく氷のような目で見下され、捕虜らは座り込んだまま身を震わせる。


 命を惜しんで彼の下につくか。それとも、全てを捨てる覚悟で海中へ飛び込むか。


 その問い掛けに応えるどころか、少しの身動きを取るに足る気力さえも、根こそぎ奪われているかのようである。


 それだけ、この海賊の雰囲気は若さに似合わないほどの畏怖感を抱かせているのだった。


「…………」


 そんな中、気力を残して紛れ込んでいる者が一人。灰色の男はさらに視線を鋭くさせ、射貫くような低音で声をかける。


「……オイ、オマエはいつまでそこにいる。早く戻って来い。話がある」


「はい、船長」


 船長はアルフレッドが感じていた監視の視線――その正体たる男を立ち上がらせると、さらに強い苛立ちを声に乗せて続けた。


「オマエ、アルフレッドに気づかれたな? おかげで、アイツの船にすぐ距離を取られた」


「大変、申し訳ございません。しかし、気づかれたところでそう不都合があるとは……」


「黙れ」


「……っ」


 短い言葉の気迫に押されて、口髭を蓄えた男は黙り込んだ。

 与えられた役割を正しく理解せず、アルフレッド・グレイディに声までかけてしまったことを思い出し、一気に脳が凍りそうになる。彼は、海風と日光にさらされて傷んだ黒髪を握りしめるように、頭を押さえるしかなかった。


「アイツはそう簡単には捕まえられん。せっかくの機会にオマエは――……あァ……心底、失望した。働けど、役に立たねば今頃サメどもの餌だ。次はないぞ、ボーマン」


「……っ。は、はい、ハイド船長。仰せのままに」


 光を吸い込む灰色の髪、絶望を与える琥珀色の視線。そんな魔王のような男が率いる海賊団が、影を捉えようと狙っていた。


 掴み損ねた姿を睨みつけ、船長は口角をあげる。


「オマエはいつもそうだなァ、アルフレッド。相変わらずで、心底腹が立つ」


 不要な荷物を海に捨て、魔王の海賊団もまた航海を続ける。

 



 大海原の中で彼らが出会うのは、もう少し先の話だった。

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