第25話

ニコラがお出かけ中の三日目。

彼女の帰りが待ち遠しい。暇なのだ。

私は相変わらず調合作業をしていた。

他にやることもない。作った薬を市場で売る。


先日の件で薬の効用の確かさは知られ、あっという間に売れてしまった。

利率がいまいちだけどそれでも生活するだけの金額にはなった。

そうするとやっぱり物欲が出てくる。

何かないかなあ。

街を見て歩く。見ると先日まではなかった大きなチラシが目についた。


「ああ、今年もこの季節がきたんだ」

「なになに?」

「魔導車のレースだよ」


聞くと、魔石によって動く車のようなものらしい。

街と街の間を走り抜けて一番先に都に着いたものが優勝。

どこの工場が一番になるかの賭けが行われるらしい。


「ギャンブルか。やってみたいけどニコラには絶対やめるように言われてるからね……」


以前賭けに乗って嵌められたことがある。

あの時は相手がニコラだったからよかったものの下手な相手と賭けをしたら何されるかわからない。


「魔導車見に行ってみる?」

「モディ、どこにあるか知ってるの?」

「うん、町はずれの工場で作ってるらしいよ」


稼働音がうるさいらしく街の中では作業できないらしい。

行ってみてもいいけどいきなり行って見せてくれるものだろうか。


「そうだね。今は無理かもしれない。大会の直前で調整中だろうから」

「でもニコラのお家の手入れもあるから寄っていくのはありかな?」


森の家の方は毎日見に行っている。

今日も見に行くついでに街はずれを散策もいいかもしれない。


そして例の工場にやってくる。

なるほど、うるさい。金属の擦れる音や何かの爆発する音が聞こえる。

これは騒音問題で街には入れれないはずだ。


「残念、魔導車は見えないね」

「まあ、いいお散歩になったよ。ニコラの家に行こう」


工場の戸は締め切られていた。

中を窺い知ることはできない。

私たちはおとなしくその場を後にした。ニコラの家に向かう。


「あれ、誰かいるね」

「まさか泥棒?」


ニコラの家に着く直前、庭のあたりをうろつく人物を発見した。

誰だろう。

亡者狩りの同業者と、領主にはニコラの不在を知らせている。

思い当たる人物はいない。

不審に思いつつ声をかける。


「どうしました。ここは剣姫様の家ですよ?」

「はい、知っております。剣姫様はいらっしゃいますか?」


女の人だった。工場とかでよく見る作業着姿の女性だ。

何の用だろう?


「実は少しばかりお願いがありまして」


あ、またろくでもない依頼だ。そんな気がした。


「魔石を譲っていただきたいのです」


モディは会話の相手の顔を見て驚いていた。


「チェル、珍しいね工場にいないなんて」

「モディ、こんにちは」


どうやら二人は顔見知りらしい。依頼を詳しく聞こう。


「混合魔石を一つお譲りいただけないかと」


混合魔石。複数の魔石をつなげて出力を上げた魔石だ。

錬金術師か魔女じゃないと作れない。貴重な品だ。


「モディ、ちょっと」

「うん、なに?」


ひそひそ話を始める。


「知り合いみたいだけど混合魔石なんて渡しちゃっていいの?」

「リッチのはだめだよ。また使う機会があるからね」

「じゃあ新しく作らないとか」


私たちが小声で話しているのを怪訝そうな顔で見つめるチェルさん。


「大会の時に使うはずだった魔石が割れてしまったのです」

「それは困りましたね。その魔石が混合魔石?」

「はい、割れたものがここにあるんですが、他の錬金術師じゃどこも今手が離せないらしくて……」


直すか新たに用意したいってことだろう。

ニコラは錬金術師としても有名らしいし頼ってきたのだろう。


「ニコラお姉様は不在ですよ?」

「みたいですね。困りました……」


チェルさんは困っている。


「ここに錬金術師いますよ」


モディは私を手で示す。それにチェルさんは大げさに驚いた。


「こんな小さい子が錬金術を修めているんですか?」

「うん、混合魔石も作れるよ」


正確にはトリッシュの知識のおかげだけどね。


「本当に作れるならお願いします」


ニコラは今はいないけど錬金術の仕事は禁止されていない。

私が代わりに納めても問題ないはずだ。


「任されました。じゃあ魔石見せてください」


家の鍵を開けて中に入る。入ってすぐのリビングに案内する。

チェルさんは席に着くとそのテーブルに魔石を出した。


「なるほど意外と大きい魔石ですね」

「間に合いますか?」

「二日あれば大丈夫です」


大会は来週。魔石を組み込む作業時間を見ても余裕はあるだろう。

明らかにチェルさんは安心した表情を見せた。


「ならお願いします。出来次第、町はずれの工場へ。待ってますね」


チェルさんの依頼を引き受けた。さっそく作業に入らないと。


「なんだか様になってきたね」


モディは私の調合作業を後ろのソファーに座って眺めている。

一度溶かしてまた魔石化させるのだ。ちょっと面倒で危険な作業ではある。


でも大丈夫。何度も作ったことがある。

そして、ほぼ一日かけて今回も無事にできた。徹夜だ。

朝日が目に染みる。眠い。

あとは街はずれの工場に届けるだけだ。

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