第17話
私たちは怒っていた。こんな小さい子に強盗をやらせている賊に。
だからこれからは容赦しない。
「火よ。荒べ。光させ」
光源魔法を唱える。
暗かった水道内は真昼のように明るくなった。
暗がりに隠れていた弓使いは姿をあらわにする。
数は二人。黒い布で口元を隠しているから顔はわからない。
相手はまた弓に矢をつがえて構えこちらに放つ。
今度は私が魔法で作り出した盾で防ぐ。
モディは少女を気絶させ持っていたひもで拘束する。
ニコラは魔法の影から一気に飛び出ると弓使いたちに迫りその一人をさやのついままの剣で強かに打ち無力化させる。
殺しはしない。どんな悪事を企てていたのか知る必要がある。
もう一人の賊は弓を捨て刃物を抜いた。
馬鹿だなと思う。剣姫に剣の腕で敵うはずもない。一瞬で勝負はついた。
「さあ話しなさい。こんなところで何をしていたのですか?」
ニコラはとらえた賊に問いかける。賊は一言も話さない。
「だんまりですね。仕方ないです、殺しましょう」
モディは容赦なくそんなことを言い出した。
剣を抜くと少女の首元に突きつける。少女は泣き出す。
「流石に殺すのはかわいそうだよ。手足の一本ぐらいにしてよ」
私もやんわりと脅す。殺されかけたのだ。許す気はない。
「わかった、話すよ。昼間話したことは全部本当なんだよ」
「お姉さんがアンデッドに殺されたって話?」
「そうだよ。アンデッド化した姉さんを止めたいのは本当なんだ」
ならばなぜ私たちの邪魔をするのか。疑問符が浮かぶ。
「姉さんはアンデッド化して自力でアンデッドを倒したんだ」
「え、じゃあ復讐相手のアンデッドはいないんじゃ?」
アンデッドが復讐を成した後どうなるのか?
それは聞いたことがなかった。
ニコラにそれとなく尋ねる。
「ということはリッチ化したのですね?」
「ああ、俺たちを脅して近場から獲物を連れてくるように言ってるんだ」
リッチ。
アンデッドが復讐相手のアンデッドを殺し自我を取り戻した存在。
老いも朽ちもしない特性を持ち危険なアンデッドらしい。
しかも人の魂を喰って凶悪化するらしくアストラル以上に危険な存在という。
なるほど。アンデッドに顎でこき使われてるってことか。
情けないが殺されれば自分もアンデッドになりかねない。
もしくは餌として喰われかねない。
従うしかなかったのだろう。
「もう多分姉さんは俺たちが捕まったのに気づいてる。戻れば殺される……」
今度は本当に恐怖で震えている。
本当にこの子たちはおバカだ。最初から全部話していればよかったのに。
「そうか。この水道の奥にお姉さんはいるんだよね?」
賊と少女は頷いた。ならやることは一つだ。
「やっつけよう。いいよねニコラ?」
私の問いかけに頷く。まあ当たり前か。彼女はアンデッドに容赦ない。
「ええ、退治しましょう。リッチの魔石はちょうどほしかったところです」
「お姉様がそういうなら私も手伝うよ」
ニコラもモディも乗り気だ。
「じゃあそのお姉さんのところに案内してよ」
「本当に戦うのか?」
「当然。剣姫とその仲間がいても不足だと思いますか?」
ニコラは不敵に笑う。少女はその様子に頬を張ってこたえる。
「わかった案内する」
「また裏切るようなことがあれば……」
「おわかりですよね?」
ニコラたちに睨まれればもう裏切ることもできないだろう。
賊二人は縛ったまま水道に放置。帰りに回収する予定だ。
その間はアンデッドに襲われるかもしれない恐怖におびえてもらおう。
多分周囲にアンデッドはもういないから大丈夫だ。絶対じゃないのは考えない。
少女だけを伴って水道を進む。
やっぱりもうアンデッドはいないようで静かな通路を坦々と進む。
あるいはお姉さんがアンデッドを退治してその魂を喰らってるのかもしれない。
いずれにしても体力の消耗は少ない状態でその部屋に着いた。
「この中だ」
「行こう。みんな」
私たちは軽くうなずきあいながらその部屋に踏み込む。
月明かりが差し込むその部屋には一人の女性が椅子に腰掛け読書に更けっていた。
「あら、キキ。もう戻ったの?」
「ただいま、姉さん……」
その女性はにこやかに少女に話しかける。
はた目にはもう死んでいるとは思えなかった。
確かに肌は病的に白いがそれだけではアンデッドと判断できない。
「あなたがお姉さんですか。事情は聴きました」
「そうでしょうね。わかってました」
「申し訳ないですがここで眠ってくださいますか?」
ニコラは丁寧な口ぶりでそう訊ねた。
話し合いが利くとは思えない。女性はくすくすと笑う。
「それは無理ですよ。せっかくこんな便利な体になったんですもの」
それはそうだろう老いず朽ちない永遠の美貌。
女性にしてみれば夢のような体だ。それを手放すなど出来ない相談だ。
ましてや命を失うのだからなおさらだろう。
「私は自らの手で復讐を遂げました。そして、生まれ変わった。老いも朽ちもしないからだ。疲れも知らず軽い体。これは神のお導きでしょう」
「魔法の知識がおありなのですね。そうでなければ亡者を倒すなど出来ません」
「ええ、そうです。私は自らの魂の熱を使い魔法を使って仇敵を討ったのです」
女性は笑いながらさらに続ける。
「人に害なす気はありません。アンデッドの魂で現状は満足です。見逃してはくれませんか?」
「残念だけどそれはできない相談かな~」
モディは剣を鞘から抜く。
アンデッドは徐々に人とはかけはなれた思考に変わる。
いずれ人に害をなす存在となり果てるだろう。討つには今しかない。
「そうですか、残念です」
そう言って彼女はその瞳を深紅に変えると詠唱を始めた。
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