8.

「ほらほら大人しくしてないと、ママさまのところに行かせてあげませんよ」


小口の顔を殴りそうになっていた時、彼女が変わらずの言い方でそう言ってきた瞬間、ぴたっと動きを止めた。


「きちんと聞けていい子ですね〜。お利口さんの子には、小口お姉ちゃんからいい子いい子してあげますねぇ」


小口が頭を撫でた途端、大河がリスのように頬をいっぱいに膨らませて怒っていた。

顔を見ずとも分かっている彼女は口角を上げていた。

面白がっている。


「姫宮さん、大丈夫でしたか? いつになく色っ──いえ、聞いたことがない声を出していらしていたので⋯⋯」

「あ、え、大丈夫です⋯⋯。⋯⋯大河が急に首辺りを嗅いできたのでびっくりして⋯⋯」

「首にっ!? まぁ、大河様なんて大胆な⋯⋯っ! 私もそうしても⋯⋯あ、ご子息の特権ですよね。さすがにでしゃばってますよね」

「あ、いえ、そんなことは⋯⋯」


つい反射でそう返したが、安野までやってきたら間近で変な声を聞かせてしまうし、大河がさらに嫌いになりそうだ。それだけは避けたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る