3.

穏やかな口調で意味深な笑みで返した。

何を言っているんだという呆れた顔を見せたが、内心明らかに見透かされたと思い、心臓が縮み上がった。


何が、なんて誤魔化すための言い方だ。

そのような旨を言われてしまったら、意識してしまう。

お互いに言えることだが、愛の言葉を大して言ってなかった。

だが、いざ目の前になると何も言えなくなる。

いい歳して、なんて子どもくさい。

そんなことでは不安にさせてしまうだろうに。


現に、愛しているのかと訊いた愛賀が唇を重ねることを要求してきたぐらいだった。

普段の愛賀だと本心と思えるが、しかし発情期の時の愛賀も同意義なのだろうか。


「慶さま、好きです」と嬉しそうな笑みで言ったその言葉は、御月堂もとい自分の欲を満たしたいがゆえに誘惑のような意味で言ってきたのではと思ってしまう。

オメガのフェロモンは正気ではいられなくなってしまうアルファ《自分》もそうであるがために、疑念を抱いてしまう。

発情期の際、こんな形で愛したくないと自戒の意味も込めて言ったが、発情期の愛賀なりの愛を受け止めるべきだったのだろうか。


「難しい顔をされてどうされたのですか?」

「⋯⋯あ、いや⋯⋯。傍から見ても私達の関係がそうと見えるのなら、良いと思いたいところだが⋯⋯」

「そんなふとした時に疑問を抱いてしまうなんて、御月堂様まだまだですね」

「まだまだ、だと⋯⋯?」

「そういう隙もないぐらいに好きと言えばいいのですよ。今日も君が好きでたまらないと抱きしめてしまうぐらいに!」

「⋯⋯なるほど」


熱っぽく語る松下に若干引き気味に返した。

しかし、松下の言うことは一理あるかもしれない。

恥ずかしがらずきちんと言うべきだと、行動に示すべきだと。

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