第5話飼い猫役までわたしをなめているの?

「だって、ぼくは天才の上に要領がいいからね。おばさんみたいにおつむがかわいそうな上にどん臭くて要領が悪いわけじゃない。おばさんみたいな人は、他人ひとの五倍も十倍も努力しなくてはならないんじゃない?」


 えらそうに持論を展開するのは、「何度目のループなの? 人生何度もこなしているわよね?」と問いたくなるヘンリーである。


 そして、クレイグもまたいらないことを言ってくれる。


「これで見た目が『ボーン』で『バーン』であるならまだしも、それらはお粗末だからな。せめてアッシュフィールド公爵家にふさわしい『ボーン』で『バーン』に近づけるよう、体も作りかえる必要があるのではないか?」


 エロジジイ。セクハラまがいのことを、よく他人(ひと)前で言えるものね。なにが「ボーン」で「バーン」よ。そんな箇所だけ成長している貴族令嬢がよければ、そのご令嬢にアッシュフィールド公爵夫人になってもらえばいいのよ。せいぜい「ボーン」で「バーン」を堪能すればいいわ。


 当然、公爵夫人たるものそんなはしたない言葉は使ってはいけない。


 だから、男性三人をまとめて脳内でぎちょんぎちょんにしてやる。


 ほんと、信じられないわよね。


 そんなふうにけなされながらも、口惜しいから必死になってしまう。


 どれだけ努力を重ねたことか。


 心も体も何度も折れそうになりながら、それでも食らいついた。文字通りに。


 そしてある日、バーナードがわたしたち全員を居間に集めた。


「突然だが、いまから葬式に出席してもらう」


 バーナードは、全員が集まったのを確認するまでもなく開口一番宣言した。 


「葬式? 辛気臭いな」

「コリン、そういう問題なわけ? 人間はね、生まれてくるし死ぬものなの。だれにだっていつかは巡ってくるのよ。それを辛気臭いだなんて、死者への冒涜よ」

「うるさいな。なにも出来ないくせにエラそうに死生観を論じるのか? 笑えるよ」

「いいじゃない。ほんとうのことなんだから」


 コリンは、なにかとわたしにちょっかいをかけてくる。いまもそう。


 なんの恨みがあるのか知らないけれど、お子ちゃまみたいな行動はやめて欲しいわ。


 内心でプリプリしつつ、いつも座る長椅子の定位置に座ろうとした。すると、飼い猫役のシャルロットが丸くなって眠っている。


 そこは、わたしのお気に入りの位置なのよね。もっとも、コリンがたまたまそのわたしのお気に入りの位置の横をお気に入りにしているのが気に入らないけれど。


 それはともかく、シャルロットはモフモフの可愛らしい猫のはずである。それなのに、どうも彼女とわたしとは相性が合わない。


 じつは、わたしが犬派であることに気がついているのかしら。


 それはともかく、いまこの状況はどうしたらいいのかしら?、と迷った。なぜなら、シャルロットはいつも一人掛け用の椅子で眠ったり毛づくろいをしている。

 わたしは、どうしても定位置に腰をおろしたい。


 なぜなら、いつもの場所でないと気持ちが悪いから。


 とりあえず、どかして彼女を彼女の定位置に移動させよう。


 決断すると即行動がわたしのモットー。


 というわけで、すでに自分のお気に入りの位置に腰をおろしているコリンの膝を足でかき分け、彼の膝とローテーブルとの間を無理矢理通ってシャルロットの前に立った。


「おい、やめろ。静かに眠らせてやれよ」


 彼女を抱こうと両腕を伸ばしかけたとき、コリンが邪魔をしてきた。


 彼は猫派である。だから、シャルロットととっても仲がいい。

 それこそ、「愛されご主人と溺愛されている飼い猫」の図みたいに。


 いまも、彼のシャツの袖口や胸のあたりにシャルロットの金色のロン毛がくっついている。

 わたしの黒色極太短髪のわたしの髪とは大違いの、きれいな猫っ毛ね。


 ほんと嫌よね。


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