諦めと、残る一縷の希望 (ティア視点)
神殿の庭園で、ゼフィール様から告げられた言葉は、私の心に激しい波紋を投げかけた。彼の真剣な眼差し、そして私を案じる優しい声。それらが、不安に揺れる私の心に、甘く、そして抗いがたい誘惑のように響いた。このまま、彼の手を取ってしまえば、もうこんな孤独な不安に怯える必要はないのかもしれない。そんな考えが、一瞬、頭をよぎったのは事実だ。
けれど、私の口からこぼれたのは、やはり彼の名前だった。
「ゼフィール様……私は、ライルが……」
私は、まだライルのことを想っていると、なんとか絞り出した。私の言葉に、ゼフィール様は少しだけ寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに、静かに私の言葉を受け止めてくれた。彼の瞳には、少しの諦めと、それでも私を尊重しようとする光が宿っていた。私は、その優しさに、また一つ、罪悪感を感じた。
ゼフィール様との会話を終え、神殿の自室に戻った私は、窓から遠く故郷の方向を眺めていた。ライルに会いたい。この揺れ動く心を、彼に全て打ち明けたい。そう願う気持ちが、胸いっぱいに膨らむ。
その日も、その翌日も、私はライルからの連絡を待った。神殿の庭園で、遠くに彼の姿が見えたような気がして、思わず振り返ったこともあった。もしかしたら、彼は私に会いに来てくれたのかもしれない。そう思って、辺りを探した。けれど、そこに彼の姿はなかった。それはきっと、私の見間違いだったのだろう。
ライルは、私を訪ねてこなかった。
私の胸に抱いていた、最後の小さな期待が、音を立てて崩れ落ちる。彼が、私の元へ来てくれないこと。そして、私の不安や孤独に、彼が気づいていないかのように、沈黙を続けること。それは、私の心を深く、深く、傷つけた。
「もう……ライルは、戻ってこない」
諦めが、私の心に深く沈殿していく。故郷を離れてからの寂しさ、ゼフィール様の優しさ、そして、ライルからの連絡が途絶えた日々。それら全てが、私の心を蝕んでいく。私にとって、ライルが全てだったのに、彼にとって私は、もう、ただの幼馴染の一人に過ぎなかったのだろうか。
ゼフィール様の言葉が、ふと、脳裏をよぎる。「ライルは君を本当に幸せにできるのか?」。今の彼を見ていれば、それは真実なのだと、認めざるを得なかった。私は、この胸の痛みが、彼には届かないのだと悟った。
それでも、心の奥底には、彼を信じたいという、ちっぽけな、しかし確かに存在する一縷の希望が残っていた。いつか、彼が、私を迎えに来てくれるのではないか。あの不器用な笑顔で、私の手を引いてくれるのではないか。そんな、淡い夢を、まだ捨てきれずにいた。それはまるで、遠い空の彼方に、かろうじて見える一筋の光のようだった。
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