第8話 モモクレスの過去②修行

 モモクレス、5歳。


 いつもは家の中でゴロゴロしていた俺は、今日はお爺さんに庭に出るように言われていた。


 夫婦2人の家は山奥にポツンとある一軒屋で、外装はそれほど綺麗ではない。築50、60年は立っていそうな古びた木造の小さな家だ。


 「おはよう、お爺さん」


 「おはよう。早速だけど今日からお前には魔術を教える」


 「え、いいの!」


 桃から生まれた瞬間にお爺さんにつけられた額の傷を、お婆さんが一瞬で止血してくれたときから、この世界には不思議な力があると薄々気づいていた。


 さらには家の周囲に現れた全長5メートルの巨大熊をお爺さんが両断して持ち帰ってきたり、お婆さんが天気の悪い日に出かけるときに雨の軌道を変えていたりしているところも見てきた。これは魔法的な力があることに流石に気づく。


 そして言葉を話せるようになった2歳ごろに意を決してこの力について教えてもらえるように懇願したが、危ないからと断られていた。


 しかしそれが今日、急に教えてくれることになったのだ。


 「お爺さんたちが使っていたの、魔術って言うんだ」


 「そうそう。お前がずっと俺たちからこれを見て学ぼうとしていたのには気づいていてな。変な覚え方をするよりちゃんと指導した方がいいんじゃないかって、オバァっちと話し合ったんだ」


 「よっしゃ!」


 これはありがたい。こういう超能力みたいなのには前世から憧れていたんだ。自分で使えるようになったらさぞかし面白いだろう。


 「それに5歳にもなったら、自分で魔獣を倒せるようにならんといかんしな」


 「いきなり敷居が高いんだけど」


 この世界には巨大で獰猛な生物が多くいる。5歳で護身術が必須というのは流石にお爺さんの誇張だと思うが、たしかに強くなっておいて損はないだろう。死にたくはない。


 「まあちょっとずつ学べばいい。ではまずは魔力の説明から…」


 こうしてお爺さんの修行が始まった。


 この世界には魔力と言うエネルギーが存在し、大気中や物体の中、それに人体の中にもそれは存在する。それを利用して様々な効果を引き出す技術を魔術というらしい。


 赤子の頃から独学でこの能力を理解しようとしていたのもあってか、俺は1か月ほどでこの魔力を知覚できるようになった。


 それから1年ほどで基礎の訓練を終える。


 「”纏い”もこれだけできれば十分か。大人と比べても遜色ない。恐ろしい成長速度だ」


 「案外簡単でした」


 「あんま調子に乗るなよ」


 本心で言っているのか、おだてているのかは分からないが、どうやら基礎の出来は認められたらしい。


 纏いとは魔力を体に巡らせる基礎技術のことだ。

 魔術の使い手である魔術師はこの纏いによって、自身の筋力を向上させたり、防御力を上げたりといった自己強化をする。


 「ではいよいよ次はお前の固有能力を作っていこう!」


 「よっ!待ってました」


 「これが一番面白いとこなんだ。自分たちでは遠い昔に終えちゃった行事だから、人の能力開発に携わるのはまあ楽しくって」


 俺だけでなくお爺さんもこれを楽しみにしていたようだ。育成ゲームをしているのに近い感覚なのかもしれない。


 「えーちょっと待ってよ!私も混ぜてほしい」


 お婆さんも家から慌てて出てきた。どうやら彼女もこのイベントに関心があるようだ。


 7年ほどこの人たちと一緒に暮らしてきた分かったが、おそらくこの二人は戦闘狂らしい気質を持っているっぽい。能力も攻撃重視らしいし、近くに巨大魔獣が出たと聞くと日課を止めて嬉しそうに狩りに出ていた。


 「敵をたくさん殺せる能力にしよう」


 「待てオヴァっち。それはモモが決めることだから。でも攻撃重視にして、広範囲型にするか、一点集中型にするかって、決行迷うとこだよな」


 「殺傷力よりも便利さを優先したのですが…」


 能力は一度決めたら基本的にはそれを生涯使い続けなければならない。どんな能力だろうと一つを極めることが大事。能力を複数持ったり、能力を頻繁に再開発したりする者は短命に終わるのが常らしい。


 「まあそうだよね。モモの意見が一番大事か」


 「炎を出したり、空を飛んだり。どれも憧れるけど、自分がどんな能力に向いてるか分からないんだよな」


 「じゃあ一つだけ真面目な助言をしてやろう。お前が自分に一番似合うという能力はなんだ。それがもっと相性がよくて、最も成長しやすい能力だ。パッと思いつくのはどんなのだ」


 お爺さんのアドバイスを聞いて、俺は再び考え出した。

 桃から生まれたこの俺モモクレスに似合う能力…


 「きび団子?」


 いやいや、そんなふざけた能力は嫌だ。強くてもダサいし。


 しかし2人はこの発言を真に受けてしまった。


 「団子を生み出す能力ってことか。それに魔法効果を付与すると。いいじゃないかい」


 「そうと決まれば早速能力開発だ!」


 「いや待って。やっぱこれは気分が乗らないから取り消したいんだけど」


 「どれだけ迷っても最終的には、直感で最初に選んだのに戻ってくるもんだから。もうこれで決定!じゃあ早速能力の開発を始めるぞ」


 「そうそう。迷うだけ時間の無駄さ」


 「ええ…」


 あまり乗り気でない能力の修行ってのも、身が入らなくて良くないと思うのだが。二人に勧められるがままに俺の能力が決定した。


 こうして俺のキビ団子能力の開発が始まった。


 まずは魔力を放出する練習。”纏い”で魔力を体内や体表に巡らせることはできるようになっていたが、この技術では魔力を飛ばすことはできない。


 この修行が案外難しい。自分の手元から離れた魔力はすぐに認識ができなくなり、操作ができなくなるのだ。そのためにまずは自分の体内以外、周囲に充満する魔力を認識する練習をした。


 魔力を放出できるようになると、次はその魔力を球体状に固める練習。そして次にそれを団子の性質にする練習。そして次はその団子に、動物を操作する効果を付与する練習。


 毎日同じような訓練を1年、それから少しずつ続けた。

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