第6話 魔女の呪い

 引力に飲まれまいと木にしがみついていた俺たちは、団長が能力を解除して引力が消えるのと同時に地面に落っこちた。俺の上にカリンが降ってくる。


 「痛っ!重い重い!早くどいて」


 「ひどーい!乙女に対して重いなんて」


 「子供相手に何張り合ってんの。10歳の体に成人女性が乗るのは普通に重いに決まってるでしょ」


 「仲が良さそうで何よりじゃの」


 気づけば俺たちの傍には団長が立っていた。俺たちは慌てて立ち上がると、服装と姿勢を正して団長へと向き直る。


 「助けてくれてありがとう。危うく町に被害が出るとこだったよ」


 「今はあの祭りに王が参加してるから、そうなったら首が飛んでたな。まあそうならんためにわしが王の護衛でここにいたんじゃが」


 「あーそれでこんなところに団長がいたんだ」


 「ほれ。先ほどの化け物が完全の飲み込まれる前に体から出てきた。たしか大切な武器って言ってたじゃろ」


 団長はあの化け物からカリンの武器を取り返しており、それをカリンに返す。カリンはもう戻ってこないと諦めていたのか、目を見開いて喜んでいる。


 「ありがとうー!あ、でも折れちゃってる。まあ直せばいいか」


 団長はあの高威力の能力を展開しながら、敵の体内に残っていた武器を取りだす余裕まであったのか。能力の練度が高い。もしかしたら俺のお爺さん並かもしれない。


 団長の強さを実感していると、彼の興味が俺へと向いた。


 「それで君がモモクレスか」


 「あ、はい。そうですけど…」


 「なんで団長が知ってるの?あ、忍から報告を受けたのか」


 「いやそれもあるが、それより前にオジーから聞いておった」


 オジー?聞いたことがない名前だが。


 「誰ですかそれは」


 「君の育ての親オジーじゃよ。わしの兄弟子でもある。なんだ、名前は知らんかったのか」


 「そんな名前だったんだ」


 お爺さんはオジーさんでもあったらしい。覚えやすくていいな。もしかしたら昔オジイと自己紹介はされていたけど、俺が「はいはいお爺ね」と適当に受け取っていたかもしれない。


 「団長はお爺さんの居場所について知ってるんですか。2年くらいずっと会えてなくて」


 「なんだ。それを伝えずにあの人は旅に出たのか」


 団長は驚いて俺に事情を説明してくれる。


 「あの人は今は、君の育ての親のお婆さんと共に魔女の調査をしている。無論君が魔女にかけられた呪いを解くためじゃ」


 「そうだったんですか…」


 まさか育ての親の二人が俺のために動いてくれていたとは、嬉しいものだ。彼らは俺が呪いをかけられて気絶している間にどこかへ出かけてしまっていた。


 「君があの山で過ごしている間に2人で解決するつもりだったようだが、まさかもう魔女の調査を始めてるとは。子供の成長は、老人では計れんな」


 「私が勧誘したの。もう十分実戦で戦えるだけの力があったから」


 「まだ子供だが、まあオジーの弟子なら大丈夫じゃろ。これからも二人で頑張りなさい。モモクレス君も、カリンのことを頼んだぞ」


 「はい。頑張ります」


 お爺さんの意思をくんで俺をまた山に戻すみたいなことはしないようだ。俺はそのことに安堵する。お爺さんたちが頑張ってるならなおさら俺も頑張らないとな。


 「ここで会ったついでに指令を渡しておこうかの。ここから南へ行った先にマツハマ村という海辺の村がある。おそらく先ほどの化け物の主の魔女はこの辺りにいるから、調査してきれくれ」


 不可解なことあったのか、カリンが首をかしげながら質問をする。


 「そこも人が消える被害の報告が出てたけど、かなり少なくなかった?なんでそこに魔女がいるって分かるの」


 「国家魔術師の被害者が出た。それで増援としてクロガネを派遣したが、苦戦しているという報告が来ている」


 「それは…ちょっとまずいかもね」


 カリンの緊張が伝わってくる。

 山姥戦とこぶ取り翁戦と通して、カリンの実力は俺より上だと認識している。そのカリンよりベテランの国家魔術師が敗れたとすると、その村で何かが起きているのは確実か。


 「クロガネさんって?」


 「国家魔術師団の幹部格の人だよ。昔は一緒に行動させてもらうこともあったんだけど、彼が魔獣や山姥に負けるところは一度も見たことがなかった」


 そんな人が苦戦しているというなら、その村で何か特別なことが起きていると推測するのは当然かもしれない。


 「お前さんらにはこの援軍として速やかに向かってほしい。手が付けらぬほど深刻な状況なら別の人員を送る故、すぐに忍に連絡するように。魔女関連となると本当はわしが行きたいところなんだが、近頃問題を起こしている賊のせいで王の護衛につきっきりでの」


 「…まあ人手不足は承知だよ。とりあえず私たちに任せて」


 「そうか。では頼むぞ」


 そう言うと団長は大跳躍で町の方へと戻っていった。王の護衛にすぐにでも戻らなければならないのだろう。


 カリンがどこか悲しげな表情をしている気がするが、気のせいだろうか。


 「王とか反逆者とか、山の外は大変だな」


 「そうだね。私も魔女を倒してこの国を平和にしたら、山で隠居したいよ」


 そういえばカリンはなぜ魔女を倒すのを目標にしているのだろうか。聞こうと思ったがそれはカリンに遮られてしまう。


 「とりあえず団長のおかげでこの戦いもひと段落したし、私たちも町に行こうか。お腹がぺこぺこだよ」


 「俺もそろそろ白米を食べたい」


 「白米が好きなの?」


 「いや好きじゃないんだけど、団子の生成で白米が必要だから、補給しないといけないんだよね」


 「変な制限を作ったねぇ。それもモモのお爺さんの助言なの」


 「そう。山の修行では米の調達が難しいから、知り合いの和尚に恵んでもらいながらやりくりしてさ。変なルールを作ってくれたよ」

 

 「まあ使い勝手が悪い方が能力の威力が上がるから、いい条件なんじゃない。団長の兄弟子って言ってたし、かなり凄い人なんだろうね」


 「そうなのかな。たしかに一度戦闘を見た時は凄いと思ったけど」


 「よかったらモモの昔の話を聞かせてよ。町に向かうまでさ」


 こうして俺はカリンに自分の過去の話をすることになった。転生うんぬんは言わないでおこう。


 

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