第十四話 成果と帰村
オークの群れを倒した俺とセームは、セームの生まれ育った村を目指し、引き続き森を歩いていた。
森の中は相変わらずけもの道で足場は悪いが、入口付近ほど木の根などが顔を出しておらず、比較的歩き易い。
セームも木の枝ではなく地上を歩いていた。
「この辺りで一回休憩しようか」
「そうですね」
俺は丁度いい大きさの岩を見つけ腰掛ける。
座っても余るほど大きな岩だっため、セームも背中合わせで腰掛けた。
水が入ったボトルを具現化し、一息つくとセームが何やらボソボソ言ってる声が聞こえる。
「どうしたんだ?」
「ステータスを見ていたら、後3,4体倒したらレベルが上がるようなので、スキルポイントをどうしようか考えてたんです」
「そうか、そう言えば俺ももう少しで上がるな」
「なら一緒にレベル上がりましょうね!」
セームは嬉しそうな声をあげた。
レベルが上がると必ず起きるのは、ステータスの上昇とスキルポイントの付与の二つだ。
上昇するステータスは現在の姿年齢、戦闘スタイルに左右され、スキルポイントはレベルが1つ上がる毎に必ず10ポイント付与される。
このスキルポイントの使い道は三つ。
一つ目は既存スキルの新規獲得、この世界に存在するスキルを5ポイント使って覚えられる。
二つ目はオリジナルスキルの作成、15ポイント使うことでこの世界にはないスキルを作成する事が可能だ。
俺が持っているスキル『連携』『投擲』『属性付与』の3つは俺が作ったスキルである。
そして三つ目が、習得済みスキルのレベル上げだ。
スキルにはスキルレベルがあり、レベルが上がるほど総体的の強くなる。
ただし、スキルレベルは使用時に3%の確率で上がることがあるため、どうしてもすぐに上げたい時ぐらいしか使うことは無い。
と説明したが、実際俺は何度かスキルレベル上げに使っている。
今思えば確率で上がったのは1,2回程度だから、悪くはなかったと思う。
次上がった時の事を考えると、特に欲しいスキルがある訳でもないし、貯めておくかレベルを上げるかの二択になりそうだ。
「クリスさん、そろそろ行きましょう。村に着くのが遅くなってしまいます」
「あぁ、そうだな。出会った敵は全員倒していくけどな」
「はい!」
セームは元気よく返事した、まるでシャインのことを忘れたかのように。
だが表情を見る限り、空元気な訳でもなく、必死に強くなろうとしてるように見える。
「無理はするなよ」
「もちろんです、強くなってシャインとルナの仇を取るんですから」
セームの強い想いが、昔同じ事を考えた頃を思い出させるが、何故強くなろうと思ったのか思い出せない。
強くなりたいと思ったのは、師匠と出会った頃だ。
その頃は明確に強くなりたい理由があったはずなのに、今はただ目標もなく闇雲に強くなろうとしてるだけな気がする。
俺は何を目指していたんだ。
俺の脳裏に謎が残った。
それから村を目指して森を歩き続ける。
この森はどうやら獣類系の魔物が多く生息しているようで、頻繁に遭遇していた。
「セーム!」
「大丈夫です! 追い付きます!」
―――「雷鳴脚」―――
セームが雷鳴脚で逃げていく、マッハウサギという世界最速の小型モンスターを追いかける。
マッハウサギは全身が緑色で腹部辺りが茶色という自然に溶け込む色をしているモンスターで、目と耳の内側が赤色。体長も30cmほどだ。
マッハウサギは足が速いが攻撃力、体力が低く攻撃さえ当ててしまえば簡単に倒せる。
だが足が早く攻撃を当てるのも難しいのに、どうして狙うのか。
それはマッハウサギから得られる経験値が最低でも3万ポイントあるからだ。
マッハウサギと遭遇する前に、ウルフを5体ほど倒したが経験値が少なかったのか2人共レベルが上がらなかった。
次でレベルが上がると思っていた矢先、たまたまこのマッハウサギに遭遇した、という訳だ。
マッハウサギのスピードに、セームはよくスキル一つで追いかけられるな。
セームとマッハウサギに追い付くなら俺も疾風迅雷だけど、セームの雷鳴脚と違って俺のは攻撃技だ。攻撃可能範囲に入れなければ、ただ魔力を使っただけで無駄にしかならない。
どうするか考えていると、前方からセームの声がした。
「クリスさん! すみません、そちらに逃げました!」
森の中でわかりづらいが、マッハウサギがこちらに向かってきているのが見れる。
あの速度とこの距離なら届くかもしれない!
―――「疾風迅雷」―――
両手で持っていた太刀の刃先から柄に、青色に光る電気が走る。
太刀を両手で持ち肩の高さ持ち上げると、刃先をマッハウサギに向けたまま走りだす。
マッハウサギは方向を変えることなく、まっすぐこちらに向かってきた。
そして5メートルぐらいまで近付くと、マッハウサギは後ろ足に力を溜め込み飛び上がる。
俺を飛び越えて行くつもりのようだ。
俺は咄嗟に太刀を突き出す。
突き出すタイミングは早すぎたが、マッハウサギの目の前に刃を出したおかげか、マッハウサギはそのまま太刀の刃に当たり、真っ二つになった。
「ナイスです、クリスさん」
「あ、あぁ、お疲れ様セーム」
すると、目の前に戦闘リザルトのウインドウが現れ、そこには獲得金額500マーネ、獲得経験値40500と表示された。
「おい、セーム見てみろ。4万だってよ」
「ふふふ、そうですね」
少し興奮気味の俺を見て、セームが笑う。
リザルト画面が消え、次にレベルアップのウインドウが表示される。
【Lv42 ⇒ Lv48】
「レベル6つも上がったぞ!」
「おめでとうございます!私は8つ上がりましたね」
「え?今いくつ?」
「今はレベル38ですね」
「スキルポイントを今から割り振りたいけど、ここじゃ危険だから安全なところでやろうか」
「そうですね、多分村のすぐ近くまで来てると思うので、先に向かいましょう」
マッハウサギのドロップアイテムを拾ったあと、俺たちは村へと歩き出す。
セームの言った通り、村の近くまで来ていたようで森の奥に開けた場所があり、そこには丸太で作られた大きな壁が立っていた。
「セーム、もしかしてここが?」
「はい、私が生まれ育った村”クレアル”です!」
村に周りは大きな堀が作られており、下は特に何も設置されていない。
深さは5メートル程で、所々に足場があるため仮に落ちても登ってこられるようだ。
しかしその足場は人の足や小型モンスターなら登れるぐらい小さく、大型は多分登って来れないように思えた。
「セーム、この堀って」
「村を森のモンスターから守るためのものですね。昔は底に針山等設置していたそうですが、誤って子供が転落した事があって今は何も設置してないそうです」
「なるほどな」
まぁどっちにしろ、村の中から感じる気配でモンスターは近寄ってこないのが現状と言ったところか。
俺は村の中から漂う、とてつもない雰囲気を肌に感じていた。
「さぁ村に入りましょう」
「あぁ」
セームに連れられ堀の傍を歩いていると、橋が掛けられている場所があった。
どうやらここが村の出入口のようだ。
橋を渡ると、セームは木の壁に掛けられた木槌を手に取り、何度も叩かれた跡がある所をカンッカンッと叩いた。
すると壁の一部が外れ、中からおじさんが顔を覗かせる。
「セーム! セームじゃないか!」
「ただいま戻りました、ハリスおじさん」
「ま、待っておれ!今門を開けるから」
そう言いおじさんは顔を引っ込めると、隣にある周りの壁と同じ高さの門を3人がかりで押し開けた。
門を開けた、先程とは別の白髪のおじさんがセームの顔を見て驚く。
「おぉ、セーム! 無事だったんだな」
「はい、こちらのクリスさんに助けてもらいました」
「そうですか、うちのセームを助けていただき、ありがとうございます。なんとお礼を申し上げれば良いか」
「いえいえ、セームと会えたのはたまたまですし、ここまで成り行きで着いてきただけなので」
「とりあえず中に入ってください、村長にも報告したいので」
「わかりました、それでは失礼します」
セームと一緒に村に入るとすぐに、おじさん達が門に付けられた縄を引っ張り門を閉めた。
「早速ですが、村長の所にご案内します。こちらへどうぞ」
「はい」
白髪のおじさんに案内され、俺は村の奥へ進んでいった。
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