ボロボロの仔竜に懐かれたので、おいしいごはんでふくふくにします!

ミズメ

仔竜に出会いました

第1話 異世界に落ちた日

 湯気の立つふんわりオムライスの優しい卵のにおい。カウンター越しに聞こえる父の笑い声と、母の小さな鼻歌。

この時間が、ずっと続くと信じていた。


 でも、現実はあっけなかった。


 両親が事故で亡くなったという知らせが通っている高校に届いたのは、ちょうど下校時間がさしかかった時だった。


 ただの悪い冗談にしか思えなかった。


 だけど、警察署で顔を合わせた担当者の言葉は全く頭に入らなかったし、小さな棺の中で眠るように横たわるふたりを見たとき、私はようやく理解した。

終わったんだ、と。


(これから、どうしよう)


 駅前の「ユキダ洋食店」は、どこにでもあるような小さな店だった。

看板には母が描いたトマトの絵。厨房には、父の味が詰まっていた。


 私はその娘で、高校を卒業したら一緒に働きたいと思っていた。けれど今は、何者でもなかった。ひとりでこの店を続ける勇気も、気力もない。

 地域の人に助けてもらってお葬式が出来たけど、他に親族もいない私はひとりぼっちだ。


 葬儀を終えて、家の鍵を閉めて、ひと気のない商店街を歩いた。

 リュックに父のレシピノートと、母が誕生日に用意してくれた新しいエプロン。二人と一緒にいるような気持ちでいたくて、ただただ歩いた。


 夕焼けが滲んで、影が長く伸びる。


「……どこに行けばいいんだろう、わたし」


 ぽつりと漏らした声は、誰にも届かない。


 そのときだった。

 耳鳴りのような音がして、足元のアスファルトがかすかに光を放った。


「……え? きゃあああ!?」


 目を伏せる間もなく、まぶしい光に包まれる。身体がふわりと浮き上がるような、重力から切り離されるような感覚。痛みも、怖さもなかった。ただ、真っ白な光が視界を埋め尽くして――

 

 気がつけば、私は森の中にいた。緑の天井のような木漏れ日、湿った土の匂い、遠くの小川のせせらぎ。


「え……」


 呟いた声だけが、葉の間からこぼれてゆく。


 ここどこ?


 それが、私と異世界との最初の出会いだった。

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