第34話 紀元前装備のバルルク辺境伯軍 VS 近代兵器(4)新代官ワイロの最後Side

 ワイロ・フォン・バルルク、それが私の名。

 アルゴ王国建国から、王家に仕えてきた忠臣であり、他の貴族とは一線を画すほど権威も名声もあるバルルク辺境 伯家の末家であり騎士爵の子供として生を受けた。

 末端とはいえ、貴族として生まれたからには『高貴なる者の義務』として、劣った存在として作られた民を躾け奉仕者として自覚させる義務がある!


 アルゴ王国を支える筆頭四貴族は、民を導くべく尽力してきた長い歴史があった。

 私も、それを自覚し、日頃から貴族たる高貴な私の命令を聞かない民を従順な民として躾けるために、仕方なく民を処分してきた。

 そして、その努力は実り、バルルク辺境伯家の当主であらされるリヒテード・フォン・バルルク様に仕えることが出来たのだった。


そんな中、異例中の異例として私は、奥の村という名前すら与える価値のない村に新代官として徴税担当者として派遣されることになった。

当然の如く、私は貴族の神たる貴族の威光で劣った民を救うために! 税を徴収するために向かったのだが、そこで私と交渉をするために現れたのは10代前半の生意気な小僧であった。


「では、伝える! 先週、この村より取り立てた税の薬草と人頭税であったが、ドラゴンの襲撃を受けて商隊は全滅。そのせいで村から取り立てた税が灰燼と化した! よって! この村には、その分の税の負担を命じる!」


 当然と言えば当然の過分なまでの配慮ある私の思慮深き命令。

 喜んで頭を地べたに擦り付けて私からの――、高貴な貴族からの命令に、無能な民は涙を流して喜んで引き受けると思っていた。

 だが、少年は溜息をついたのだ! 

 この私の前で!

 どう見ても、高貴で神なる絶対的な権力を持つ貴族に反意を持って溜息をついたのは明らかであった。


 そして、よりにもよって――、


「ワイロ殿。そもそも、税を取り立てたあと、辺境伯領の本拠地まで運ぶのは辺境伯様の仕事では? それを、できなかったからと言って再度、税を取り立てようとするのは、自分たちは責任が取れません。無能ですと発言している事と同じことだと思いますが?」


 そう吐いたのだ! 汚らしい身分の! ゴミ塵芥のような存在の! 平民風情が!

 一瞬、私は平民が何を言っているのか理解できなかった。

 貴族に意見をするなんて許されることではなかったからだ。

 これだから学のない無知蒙昧な一桁な暗算すら出来なさそうな無謀なゴミは困る。


「まったく! これだから若い村長は困る! 貴族がやれ! と、言ったのだ! だったら命令どおり、やればよい!」


 論理的思考回路すら持ち合わせていないであろうカズヤという若者を見て、私は高貴なる者の義務として一度だけチャンスをやった。

 そんな慈悲深き私に対して若者は――、


「税の二重徴収なんてされれば村が壊滅します」


 ――と、言ってのけた。

 税の二重徴収。

 何だ? 二重徴収というのは?

 少年の言った言葉が私には理解できなかった。

 何の学もない村の少年。

 そして私は理解した。

 目の前の、カズヤという少年は、訳の分からない言葉を使い貴族たる私を騙そうとしているという事に。

 これでも私は王都の貴族学院を3番目の成績で卒業している。

 そんな私が理解できない言葉を村人が使えるわけがない。

 答えははっきりとした。

 目の前の少年に言葉は通じないということに。

 やはりだ! 

 貴族たる高貴な身分である私が少年に現実を! 税とはなんたるかを! 貴族がどれだけ敬われる神たる存在なのかを教えなければいけないという事に。


「だから言っただろうが! 貴様らムシケラの命なんてどうでもよい! 貴様らは、貴族様の命令に従って税を治めればいいんだよ! 穀物で無理なら金だ! 金で駄目なら、村人を奴隷商人に売って! その金で、税を治めればいいんだよ! これだから頭が弱い奴は、嫌になる! ――であろう? イルルクよ」

「今は、こちらのカズヤが村長ですので」


 イルルクという老人までもが私の言葉を肯定しようとしない。

 それは許されることではない。


「――ちっ! とにかくだ。一週間だ! 一週間後までに、辺境伯軍を連れて税を徴収しにくる! もし払えなかったら、見せしめで皆殺しにする! 分かったな?」

「分かりました」


 私が、貴族の常識を口にした途端、理解を示すカズヤという無能。

 だが、私の気分が晴れることはない。

 何せ、貴族を! 神たる貴族を冒涜したのだから。


「分かればいいんだよ! まったく!」


 そう私は吐き捨てて、奥の村をあとにした。

 帰りの道中でも、厚顔不遜な少年カズヤの顔が浮かんできて仕方ない。


「苛立ちが収まらない!」


 私は貴族の――、高貴なる者の義務を果たすためにリヒテード辺境伯に軍を借りて『奥の村』に向かって進軍を開始した。

 早ければ明朝の朝には到着できると確信して。


「待っていろ。カズヤ! 貴様の大事な者を根こそぎ殺し尽くして、貴族の言う事を聞くように教育をしてやるぞ!」


 私は、高貴なる貴族の義務を胸に進軍し、渓谷の前に差し掛かる。


「ここはドラゴンが居ると聞いたが?」


 近くの騎士に話しかける。


「斥候よりドラゴンの姿は昨日を含めて最近は確認できていないそうです」

「そうか! では進軍! 明日には、村に到着だ! 待っていろ! カズヤ! 貴様を――」


 そこまで考えたところで、私の体は空中に舞った。

 馬も一緒に。

 視界の中には、青銅製の装飾が施された鎧に守られていたはずの手足が――、自分の手足が空中を舞っていた。


「な、なんじゃこりゃああああああああああああああああああ」


 何が起きたのか分からない。

 何が起きたのか理解ができない。

 私は絶叫しながら、地面の上に倒れる。

 それを皮切りにして、私を中心にして次々と大轟音が渓谷前の盆地で鳴り響く。

 そのたびに、どこかしら絶叫が聞こえてくる。

 そのうち、私は理解する。

 空中に舞っていた手足。

 それは私のものだったということを。

 事実、私は右腕と左足を失った状態で地面の上にうつ伏せの状態で倒れていた。

 そんな私の近くには、切断された右腕と左足が落ちており、その傷口はズタズタに何かに噛み千切られたような跡すらあった。

 さらに酷いことに、徐々に傷口から痛みが昇ってくるのだ。


「いてええ。いてええよお、私が――、私が――、何をしたというんだ! こんな意味不明な理不尽なことをされる謂れはないというのに……」


 理解が追い付かない。

 今まで貴族――、ノブレスオブリージュを、体現してきたというのに。

 塵芥な民を救済するために、民の体を使って教えていたというのに。

 何も悪いことはしてない。

 なのに、こんな仕打ちはあんまりだ。

 しかも、このような状況に何故、なったのか理解すら出来ていない。

 

「ふざける……な……よ……。わ、わたしは……、こんなところで……こんな死に方をして……いい……人間では……」


 私は、四肢切断された中で激痛に苛まれながらも、意識が遠のくのを感じながら自身の鼓動が落ちていくのを感じて――、


「しにたくない……しにたくないよ……だれか……たすけ……」


 そこで私の意識は暗闇に呑まれた。





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