少数民族辞典 東アジア編 著:西村義晴 國書出版社 2011年


…中国の少数民族では漢民族にとっての反逆者や怪物を自らの文明文化の始祖や神とするケースがよく見られます。漢民族と少数民族は頻繫に敵対していたため漢民族から見て少数民族の信仰対象は悪魔や邪神と見なされることが多かったから、また少数民族側も漢民族側に敵対したとされる伝説上の存在を祀ることで漢民族に対抗しようとしたなどが理由として考えられています。

そのような怪物の例として例えばミャオ族など中国南部の少数民族が崇拝する蚩尤が挙げられるでしょう。蚩尤は湖南省梅山地区に住んでいたとされており牛の頭と四つの眼、六本の腕に人や蛇の身体、熊の足を持つとされる異形の神で81人の兄弟と多数の怪物を率いて人間としては最初の皇帝、黄帝から王位を奪おうとしたと言われています。霧を出し黄帝の軍勢を苦しめましたが最終的には敗れ首を切られ復活しないよう埋められたと伝えられています。

これらの伝承から蚩尤は恐ろしい怪物達の主とされ、また歴史上で最初に反乱を起こしたとされています。しかしその一方で蚩尤は武器を発明した軍神や戦争の神として信仰されています。劉邦が項羽との闘いの際、…




色が表すもの 著:古川 梨央 百川書房 2022年


…赤は古くから戦争や残虐を表しています。おそらくは血からの連想でしょう。

(中略)

中国でも赤を戦争と結びつける考えは存在します。例えば中国の軍神、蚩尤は赤と強く関連付けられます。これは蚩尤が斬首された際に流した血から来るもので山河や草木が真っ赤に染まったという伝承などが存在します。

また蚩尤旗という名称の赤色もありこれは蚩尤が使ったとされる紅い旗や蚩尤が埋められた塚から出るとされていた赤気(オーロラのこと 低緯度ではオーロラは緑でなく赤く見えます)に由来すると考えられています。その他蚩尤は干ばつを象徴するとも言われており照りつける太陽の神格化という説などもあるそうです。




中国の鬼神 著:渋谷勇作 長月出版 2005年


…中国の怪異、蚩尤は中国を中心とした東アジアに見られる破邪神の源流なのではないか。つまり牛頭天王、鐘馗、方相氏など異形の姿を持ち怪物の統率者である破邪神には破邪神としての性質を付与される以前の姿、つまり人々から強大な怪異の王として恐れられていた原型があり、それこそが今日蚩尤と呼ばれる怪異なのである。人々から恐れられていた蚩尤が次第に怨霊の主として魔除けの効果を期待して信仰され始め、それとともに蚩尤の持つ属性が分離し時には相互に混合しあって形成されたのが牛頭天王を初めとする破邪神群だ。そもそも蚩尤すら後に破邪神として崇められ護符が作られている。

(中略)

つまるところ、現在信仰されている破邪神とその破邪神によって追い払われる存在は本来同一の存在であり、その存在こそが本来の蚩尤、あるいは蚩尤以前にいた未知の存在なのである。

(中略)

では本来の蚩尤とは如何なる属性を持っていたか。破邪神群とそれによって追い払われるとされた怪物から逆説的にそれを推察することができる。すなわち、二本の角、四眼あるいは突出した眼などで表現される眼の強調、血あるいは火とそれによる赤との密接な関係、その一方で主に破壊的な属性、例えば洪水や干ばつとしての水との関連、人の要素を持ちながらも異形である、疫病の原因である多数の怨霊を始めとする怪異を統率する王、武器あるいは戦争、反乱と関連する、中国南方を中心とした崇拝、王朝の創始者と戦って破れ山の下の地下や洞窟あるいは水底に埋められ封印、残虐な方法で殺されその後蘇るか祀られる、毒を持つ蛇あるいは龍との結びつきが蚩尤、あるいはそれ以前に存在した未知の存在の持っていた属性として考えられる。そしてこの怪異が後に信仰することで怨霊や怪異を追い払うことができる破邪神として信仰される。この際、その姿を描き視認することが魔除けとして重要であった可能性が高い。

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