十六章 新技炸裂

「クリスマス会の主役、サンタクロースの登場です!」


 シャキーンと決めポーズ。美咲たちが呆気あっけに取られていると、


「僕たちの前によく現れましたね、オーレン。僕たちをファーストベルだと思ってあなどり過ぎたんじゃないですか? 悪は悪らしく、僕にかしずくべきです!」


 ――かしずけえ!


 メガネの生徒は瞳孔どうこうを見開き、くうにらみ付けた。ナイフが飛ぶ。


 オモチャのライダース・ヘルメットに取り付けられたピンマイクが、彼の声を魔力として押し出し、極地の氷床ひょうしょうに封じ込めるがごとく、モンスターの一挙一動を停止させた。


「――ダアー! 覚悟しろやオーレンども!」


 ちょうやくする男。オリンピック選手かおけのジャンプをろうしたのは、体格の良い男子生徒。


 特撮ヒーローのように武器を抜刀すると、電撃でんげきえんの壮絶なビジュアルをともなって変形。


 黒澤くろさわ映画でも見ているのだろうか。不良口調の彼はアクロバティックに宙返り。長い剣身けんしんを見事に振り回す。


 着地してバク転を三度。そのまま攻撃を刀身全体で受け、右に左に受け流し、おおち回りを演じる。


 ――ドガァアアン! ボガァアアン!


 爆発音ののち、一面にじんが舞った。


 ――ブォン!


 ブレイブソードから雷炎らいえんのエフェクトが消失。


「任務完了! テメーの能力で、超ラクに倒せた。ナイスサポート」「ナイスアタックです」


 つちぼこりが晴れると、二人の生徒はハイタッチした。


「あなたたちは……」


「クリスマスカードとプレゼント、二年三組を代表し、届けに来ました。広尾高校の生徒です。せっかくなので、サプライズのヒーローショーをと思いまして。楽しんでいただけましたか?」


 メガネの生徒こと拓巳は、ライダース・ヘルメットを脱いで笑顔を作った。


「ヒーローショー?」


「ブレイブレンジャー!」「ライダースマーン!」


 園児たちは次々に駆け、炎と拓巳の元へ集まった。


「ありました、園長先生の『月間指導案』」


 保育士の一人がせわしなくやってくる。タブレットでエクセルファイルを見せてきた。


 たんのセルには「クリスマス会」と入力され、特記事項がらんに続く。


「えーっと? 『活動日、十二月九日金曜。プレゼント交換は、地元高校生のボランティア活動を取り入れる。アッと驚くプレゼントを頼んじゃったもんねえ。保育士のみんなもびっくりするぞお! 顔文字』」


(園長めー。〝頼んじゃったもんねえ〟じゃないのよ! ビックリしすぎて心臓止まるわっ! 報連相ほうれんそうなさすぎ! あと顔文字古すぎ!)


 美咲は握力でタッチペンを折りそうになった。


 サプライズはともかく、高校生がクリスマスプレゼントを届けに来たのは本当のようだ。


 美咲は納得し、メガネの生徒から包みを受け取った。中には、サンタの人形と一緒に、クレヨンや色鉛筆でいろどられたグリーティングカードが入っている。


 美咲は心が温かくなった。


「二人とも、ありがとう。ヒーローショーは素敵だけど、園内で暴れるのはほどほどにね」


 ――ズッガァァアアン!


 彼女は見た。グラウンドにあるすべり台が吹き飛ぶのを。


(えっ?)


 ひしゃげた遊具は宙を舞い、巨大なハンマーのように美咲目掛めがけて落ちてくる。


「危ないっ!」


 ――キィィン!


 炎が瞬時に反応し、ジャンプして滑り台を真っ二つに切り割いた。火花を散らした鉄塊てっかいは、落下と同時に炎のほおをかすめる。「ちっ」


 ――ズドォォオオ!


「どうなってやがる!」


 炎は腕で血をぬぐい、肩で息をした。


「炎君! 後ろです!」


 拓巳の指の先には、不気味に回転するグラウンドの砂。砂嵐は次第に形を成し、巨大な怪物へと姿を変えていく。


 げんじゅうオーレンが、一般人にもその姿を見せた瞬間であった。


「コイツ、風を操るタイプだったのか……! 合体してデカくなってやがる……。行くぜ拓巳!」


「了解です!」


 二人は同時にグラウンドをり、うなかぜあらしに向かって突っ込んでいった。



 ✦ ✦ ✦



「うわァ! かわいい!」


 広尾高校、二年三組、白川雪乃は胸を弾ませていた。


 オモチャ屋に入るなんていつぶりだろう。雪乃は目を見開き、ゆっくりと店内を見渡した。


 手前の棚はぬいぐるみコーナー。ペンギン、ゾウ、キツネなど、愛苦しい動物たちが迎えてくれる。


 天井から吊り下げられているのは、ポンポン跳ねるカラーボール。サッカーボール、バスケットボール、野球ボール柄のオモチャが目を引く。


 ショーケースに並んでいるのはミニカーたちだ。ブルドーザー、パトカー、消防車。小学生なら男子も女子も、目を輝かせて欲しがるだろう。


「おやまあ、てっちゃんトコのお孫さんじゃないかい?」


 店の奥で新聞を読んでいたのは、しら交じりの店主だった。しわの刻まれた顔は、昔と変わらず優しさに満ちている。雪乃は丁寧ていねいにお辞儀じぎをした。


「思い出すねえ。あの頃は毎週のように来てくれたもんさ。見ての通り、すっかりさびれちまったけどねぇ」


 老人は入れ歯を見せながらカタカタと笑った。


 かつてはすきなく商品が並んでいた棚も、所々に空きがある。昔に比べてオモチャの数が減っているのは一目瞭然だった。


「総合スーパーができたのが痛手だったねえ。町のオモチャ屋はめっきり取り分がなくなっちまったさ。ハハハ」


 コンビニまで歩くのが面倒で、栄養ドリンク購入のためだけに入店した雪乃は、少し悪い気がした。


「マジカルプリンだー、懐かしい!」


 商品棚を回っていると、足元の古めかしいオモチャが目に飛び込んできた。


「よく知ってるね。そうだよ、マジカルプリンのメイクアップセットさ」


「再放送を、姉と一緒によくてました」


『魔法戦士マジカルプリン』。爆発的に人気のあった少女アニメである。ブロンドの髪と、うるんだ大きな瞳の主人公、星野プリンは姉世代のアイドルだった。


(お姉ちゃん、今でも覚えてるかな……)


「少女アニメも変わったねぇ。人気作が次々出るようになって。色々な物語を楽しめるのはいいんだけど、往年おうねんの作品といえばコレだよ。そうかい、今の若い子も知ってるのかい。嬉しいねえ」


 老人は、活気のあった時代を振り返って、顔で笑った。


「三千円か……」


 高校生にとって三千円は大金だ。雪乃はウサギ柄の財布を開けたが、値段を見てトホホとばかり口をつぐんだ。


いちでどうだい?」


「えっ、そんな悪いです」


 老人は身を乗り出して、雪乃に迫った。いち。千五百円。半額だ。


「いいんだよ、持っておいき。どうせこの店から誰も買いやしないんだ。ここであんたに大金をせびっちゃ、天国のてっちゃんに叱られちまうよ」


「それじゃあ……お言葉に甘えて。ありがとうございます」


 こうして雪乃は、栄養ドリンクとメイクアップセットを手に入れ、ホップステップしながら保育園に向かうのだった。



 ✦ ✦ ✦



 ――カンッ、キンッ!


 ――ズザァァアア!


 炎と拓巳は苦戦していた。攻撃しても攻撃しても、刃が通らない。


「おいカミゴン! 敵は弱いんじゃなかったのかよ!」


(イヴ様も骨の折れる作戦を立てたものカミ……)


 炎のいらちに、カミゴンは冷や汗を隠し切れない。


『あなたたちの次のミッションは、広尾こども園の警護よ』


 イヴの作戦はこうであった。


『明日、つまり十二月九日、この地区の保育園でクリスマス会が予定されているの。あなたたちのクラスは、ボランティアでプレゼントを届けるでしょう? 百パーセント妨害が入ると思いなさい』


『こども園? 近所の保育所じゃねえか』


『その通り。原因は、炎、あなたにあるの。あなたは拓巳君の一件で、好き勝手あばれた。ダーククロスはこの地域に、駆け出しサンタがいると踏んでいる。


 下級の敵が手柄を求めて、ノコノコ現れるはずよ。それをやっつけるのが、炎、拓巳君、あなたたちの仕事ってわけ。新人サンタの実力を思う存分見せつけてやりなさい!』


「きっと、砂がアーマーの役割を果たしているんですよ」


 ゴーグルを起動させた拓巳は、表示された数値データを解析しながら言った。


「アレです、なるの渦。渦潮うずしおに巻き込まれたボートは、かじを失う。同じ原理で、モンスターたちは砂嵐を防具に仕立て、ねらいをつけられないようにしているんです」


「物理は苦手だ。にもかくにも、力一杯攻撃こうげきすりゃ解決だろ」


「違うカミよ! 拓巳の話をよく聞くカミ!」


 炎の肩に乗るカミゴンは否定した。


「じゃ、どうしろってんだ」


なるの渦は、速さの違う海流がおび状に流れると発生するんです。速い海流と遅い海流の差が、無敵の防護を生む。


 モンスターの砂嵐も同じだと思います。つまり、流れの差をなくせば、敵は僕たちの攻撃をよけきれないはずです!」


「そんなことかよ」


 要点をとくした炎ほど、心強いものはなかった。


 炎は重たいサンタコートを脱ぎ捨てる。


「炎君。いちさんで連携プレーをしましょう。僕が奴の注意を引きますから、その間に……」


「ああ、頼むぜ!」


 紐靴にフルじゅうてんされた魔素ソルが、音を出して帯電しているのが分かる。

 クラウチングの構えを取り、炎は深呼吸した。


いちさん、今です!」


「ブレイブレンジャー、嵐光迅走<ストーム・ラッシュ>!」


 ――ドンッ!


 音速を超えた炎は、オーレン目掛けて突き進んだ。


『そこで提案なんだけど』


 イヴは二人の顔色を交互にうかがう。


『ぜひとも新技を編み出してほしいのよねえ。


 炎のソードアタックはぶきっちょな包丁だし、拓巳君の言霊ことだまは〝行き当たりばったり感〟が否めないから』


『んだと?』炎はあからさまに敵意を向け、拓巳は舌を出し恥ずかしそうに後頭部をいた。


 イヴの提案は至極とうであった。


 プロサンタたるもの、技の精度は命だ。倒せるでなく、格下相手には確実に勝利しなければならない。そのためには、技の種類を増やし、臨機応変に対応する必要がある。


 イヴの主眼はそこにあった。


『というわけで、炎、あなたはちからわざ以外で相手を倒す方法を編み出しなさい。拓巳君、あなたは心理戦以外の方法でもサポートできるようになるのよ』


(――だから僕は、ライダース・ヘルメットを選んだ)


 オーレンを前に胸に手を当て、心を落ち着かせているのは拓巳だった。


 イヴから誘われたとき、自分には能力がないと思っていた。


 それもそのはず。拓巳は特撮とくさつを好んでいたが、現実世界でけんをしたことは一度もなかったのだ。


 でも、炎に背中を押され、命を助けられ、殻を破る生き方も素敵だと思えるようになってきた。


「アンプレベル八・五、ディストーション第三段階、リバーブ強め、周波数モジュレーション二十パーセント……」


 拓巳はヘルメットのボタンを手際よく操作する。ゴーグルに表示されたパワーゲージが、まるや否や、


「――氷封足固<ホワイト・ロッカー>!」


 ――タタタンッ!


 無数のこうが、ロケットのようにオーレン目掛けて飛んでいった。


 拓巳の選んだ道は、ピンマイクに魔素ソルを付与してもらい、声を実体化させることだった。それは飛び道具のように敵に向かい、モンスターをひざまで凍結させて動けなくする。


 凛冽りんれつたる拓巳の声は、言葉に生命力を宿していた。


 ――オロロォォオオ!


 オーレンは猛獣のようにうなり、ざかしいとばかり、拓巳の攻撃を片腕で防ごうとする。だが、ロッカーのミサイルは、思った以上にうねうねと動いた。


 敵の下半身に魔光が命中すると、強い冷気がオーレンを包み込む。


 敵の両足にブロックアイスのかせがかかった。ホワイト・ロッカーによって、オーレンの自由が奪われたのである。


 突然の出来事に、モンスターは炎から視線をらした。


「オーレンさんよお、俺様相手に、ちょっと注意が散漫さんまんじゃねえのか?」


 炎は八重歯を見せてニイと笑う。


「ヒャッホーイ!」


 低姿勢からの高速移動。嵐光迅走ストーム・ラッシュは、魔力を紐靴に溜め、爆発させることで加速を可能にする。へいで囲まれたグラウンドを舞台に、彼の姿が残像となっておどった。


 コンクリート壁をる音が、力強く鳴り響く。炎は四点の壁面をたくみに使い、オーレンの周囲を跳び回った。


 オーレンは腕を伸ばし彼を追おうとするが、氷のかせに加え、巨大化による重量があだとなり、とらえきれない。


 ――ビュン、ビュン、ビュン!


 空気を切り裂く音。炎の速度はさらに上がっていく。砂嵐の角速度に追いつき、やがて同調し始めた。


「うおぉぉおお!」


 肩甲骨けんこうこつが隆起し、上腕頭筋とうきんが膨れ上がる。たけびと共に、炎の右腕がを描いて前方へ振り下ろされる。


 静止して見える砂嵐の間を、ブレイブソードの刃先が、


 通り抜けた。


 ――ズザァァアアン!


「やりました!」「やったカミ!」


 炎はモンスターを真っ二つにり、よろけつつ着地。


 倒されたモンスターはうめき声を上げ、シャボン玉のように四散してしまった。


「ウエッ、気持ち悪……」


 慣れない動作をしたせいで、炎はグラウンドにしゃぶつをぶちまけ、その場に倒れ込んだ。ブレイブソードはシュンシュンと力ない音を出し、輝きを失っていく。


かん一髪いっぱつでしたね」


 拓巳はひたいの汗をぬぐった。


 一時はどうなるかと思った。だが、さすがは彼だ。短時間で新技をものにし勝利した。


(いや、それは僕も同じか……)


 自分たちの成長を感じると、拓巳の表情は無意識のうちにほころぶのだった。


 トゥルン。襟元えりもとから電子音が響く。


「拓巳、レベルアップしたカミよ」


 カミゴンに促され、拓巳がえりしょうに目をやると、小さな字で『レベル3』と表示されていた。


(そうか、オーレンが複数体いたから、レベルアップも早いのか……)





「あらあら、意外と強いのね、あなたたち」


 倒れている炎をかつごうと肩を回していると、上空からつやのある声が聞こえてきた。

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