十三章 〝破壊者〟たち
「任務完了」
炎はゴーグル型の無線を起動させた。
「良くやったわね。モニター越しでも
矢崎家の三角屋根に腰を据えたイヴ。半透明のホログラム式パソコンを操作しながら、炎に応答した。
シンタクラスの入団テスト『オモチャを届ける』は、時間ギリギリで間に合った。
イヴの肩に乗るカミゴンも興奮気味だ。
「冗談抜きで見事だったカミ。ヒヤヒヤしたけど、変身ベルトで先生に
「へへっ、俺だってやるときゃやんだぜ」
変身を解き、学生服姿で
「それにしても、よく拓巳君がボードゲームを欲しがっていると
「
「勘……!」
炎のあっけらかんとした答えに、イヴは両目が飛び出そうだった。炎らしい、早速のレギュレーション無視である。
「いや、普通にセーフだろ。『本人の欲しいオモチャを知り、それを届ける』。『本人から聞き出せ』とは一言も言われてねえぞ」
「あたしが変身ベルトのヒントをあげたのは、本人と会話しやすくするためよ。勘で選ぶだけなら、誰だってできるじゃない!」
「結果オーライ。何言われようと、パスはパスだからな」
「はぁア……」
イヴはカミゴンを抱き寄せ、
「今回については、炎、あなたに
あたしたちはサンタなの。サンタは本人が望むプレゼントを届ける
「存在意義か。大層な
「どういう意味よ」
「アイツが『バトルカードが欲しい』って言ったら、お前らはそれを渡したのかよ」
「規則だからね」
「これだからサンタは。イヴ、お前少しは学生したんだろ? もっと人間のこと分かれよ。人間ってのはな、口に出して
ただの配達ならピザ屋でもできる。サンタなら、願いのその先を
「相手の気持ちが
はたと口を押さえるイヴ。炎がカミゴンに苦言した文句そのものではないか。
何なんだこの男は。イヴはゴーグルを閉じ、モニターに映る彼を、改めて凝視する。
「バーカ、バーカ。言い返してみろ! 高校男子の
彼女は
「今回はビギナーだから大目に見るけど、サンタ活動中は、ルールに従ってもらうわよ。いいわね? サンタの三大
「オモチャを間違わない」
「二つ目」
「
「三つ目」
「ライフを
「カミゴン、よくできました。この三大禁忌を守ってさえいれば、あなたはサンタとしての活動を続けられるし、
とにかく守るの。ルールは一ミリもはみ出しちゃいけないわ。あなたの行動は、一つ目のルールを破りかねないものだった。危ない橋を渡った自覚をなさい」
まるで先生と生徒だ。
『三大
サンタは子どもが嫌がるオモチャを届けてはならず、決して身分を明かしてはならない。命の尊厳にも踏み込んではいけない。裏世界絶対の
炎は頭が痛くなってきた。
ルール、ルール、ルール! どうしてこの世界には自分を
「そもそも、テメーらサンタが人間相手に不器用すぎるのが――」
――ズドォォオオン!
言い合いをしていると、住宅の間から、耳をつんざくほどの巨大な地鳴りがした。
「表世界の人間は、狭い空間に閉じこもるのが好きだねぇ」
窓の
「け、健太君じゃないですか」
クラスメイトの一人、健太であった。
生気のない顔。彼は眼球をぎょろりとさせ、まるで獲物を探す捕食者のように、拓巳の勉強部屋を見回している。
拓巳は本能的に間合いを取った。
「警戒しないでよ。友達じゃないか」
健太の声が冷たく響く。
その瞬間、健太の口は裂けるように広がり、耳まで達する不自然な笑みが浮かんだ。健太の体が重力を無視して部屋に
「新しいサンタはどこだい? 君は何を
「し、知らないさ」
「教えてくれないのかい」
拓巳の言葉に、健太の目が赤く染まる。粘土を
「ねぇ、教えてよ。誰が新しいメンバーなんだい? 彼の弱点はなんだい? 友達同士、
拓巳はなんとか
「僕に友達なんていませんよ! あなた健太君じゃありませんね」
「なーんだ、もうバレたのか。つくづく人間の心は読めない」
――ブスッ
「――ガはッ!」
「ボクたちは急いでるんだ。規格外の異能を持つのが彼かもしれないからね。
グギギギ……。
血が腕を伝って床に
何者かは知らない。こんな訳のわからない奴に、腕を引きちぎられるのはまっぴら
友達はいない。そうさ、当たってる。
『メガネ!』『メガネ、焼きそばパン買ってこい』『体力ねーなお前は』『真面目過ぎんだよ』『
これまで、先輩や同級生たちに散々からかわれてきた。メガネだの陰キャだの、言われ放題だったじゃないか。
ここで僕がリベンジに出たって、誰も文句を言えない。悪いのはいつだって周囲だ。いっそのこと――
『お前、演技の才能あるんじゃね?』
思い出したのは、誰も掛けてくれなかった言葉。自分を認めてくれた同級生。
拓巳は
「聞いていればモンスターの
学級委員は
「不法侵入、暴力、
「あん? 何言って……」
「
ナイフが飛んだ。
その荒々しい声。先ほどとは一線を画す拓巳の
「おい、何してんだ。こんなモヤシ相手にビビってんじゃねーぞ」
「モヤシ相手? 自分の立場が分からないようですね。人の上に立つは腕力にあらず。古来より人は、言葉にスピリットを宿す者を、
ライオンやヒョウが
「バカな。なぜ腕が言うことを聞かない」
「あなたはミスを犯したんです」
拓巳は腕に刺さっていた爪を引っこ抜いた。
「クラスメートの肉体を借りれば、やすやすと学級委員の
「そうか。そうかそうかそうか。この肉体にそんな弱点が」
くぐもった笑い声。黒い影は巨大化し、天井の届くほどになった。
見ると、抜け殻になった健太が倒れ込んでいる。
「健太君! 大丈夫ですか!」
拓巳は慌てて健太の腕を
「小細工などせず、元の姿のままで良かったのか」
黒い影が渦を巻くように
「君の能力〝
ベルベットのごとく柔らかく、しかし
「言葉だけでは、この美しき我が肉体に、傷一つ付けられないのだよ」
「はあ? 助けに行けない?」
矢崎炎はゴーグルに向かって
「我慢しなさい!」
イヴが
ゼルヴァンが出現したのは、疑いようもなく拓巳の家だった。カミゴンが慌てて間に入る。
「今すぐ戦いたいのは分かるカミ。でも、相手は本物のゼルヴァン。ガキトとは比較にならない強さカミ。炎の現在の実力じゃ、小指で倒されるカミよ」
「さっき応援を呼んだから、五分もすれば来てくれる。
イヴは立ち上がり、手首と足首にあるボタンを押す。ガスが噴出し、学生服がサンタコスチュームに変容した。
「五分……!
「忘れないで」
イヴの言葉は冷たい。
「三大
あなたは一度の変身で
「お前がナントカって魔法で、アイツの記憶を消せばいいだろ!」
「バカ言わないで。炎、あなたのために言ってるの。ルールを二つも破ったとなれば、確実にあなたはサンタ界から追放される。それはあなたにとっても、あたしたちにとっても、
(くっ、またそれか)
炎は
――ズドォォオオン!
最初の地鳴りを超える振動。拓巳の部屋からだ。
「これでも手を出すなって言うのかよ!」
「
ブレイブソードを握りしめる手が
『ケーキ?』
『そうさ、小さいショートケーキじゃないぜ? こーんなでっかい、ホールケーキなんだ』『美味しそう。早く食べてみたい!』
『
自分を
『妹が息を引き取るまで、サンタは姿を見せなかった』
「――あぁああ!」
気が付くと、炎は
「炎、やめなさい!」
「ブレイブ・星芒爆光<スターバースト>ォォオ!」
――バリィィイイン!
拓巳は見た。
窓ガラスを
「覚悟しやがれぇええ!」
振られたブレイブソードは、雷と火の壮絶なビジュアルを伴いながら、
「――ギャァアァア!」
ゼルヴァンの腹部を捉えたのであった。
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