第5話 コミュ障、大地に立つ

 人を感動させるのは難しいのに、人を怒らせるのは簡単だ。なぜだろうか。


 喜ばせるのは簡単だ。一万円渡せば、みな喜ぶ。

 しかし、知らない人からもらうと、逆に怖い。


 怒らせるのも簡単だ。また一万円を取り上げればいい。

 一万円を細く折って、顔を突けば、だいたい怒る。


 哀しませるのも、テクニックは必要だが簡単だ。

 一万円をこっそり抜いて、「たぶん落としたんじゃない?」と言うだけだ。


 楽しんでもらうには、一万円で映画館に行けばいい。


 ただ、時々映画館で感動することがある。

 どうやれば、人の心が動くのか。


 そんなことを考えていると、先日アップした動画に、またアンチがやってきた。


@sokonoke2323・1週間前

うぉぉぉ、ゲームでこのBGMでプレイしてみたい

オケで聴いてみたい


@PAPEPO.TV・3日前

私が神岡龍太郎です。どう勉強したら、ここまでなるん? DAWで終わったわ


@ハムスター1919・1日前

EQさわるの10年早いと書こうと思ったら、やるじゃん。俺の指導の賜物


 @パペポつるべ・1日前

 2年でウソやろ。EQって、お前、俺にこっそり教えろ下さい 


 @ハムスター1919・1日前

 DTMer音痴来るな、カス



 相変わらず口が悪いが、突然褒めてくれた。

 嬉しくもあるが、先生気取りが腹が立つ。

 こいつでメンタル鍛えられたなら、まぁそれは一理ある。


 

 高校3年になると、いよいよ周りがピリピリし始めてくる。

 受験まっしぐらもいるし、就職組もいる。

 フリーターで諦めているやつもいるし、羨ましいのは、親の会社へ行くのが決まっているやつ。


 自分には会社員の両親なので、チート能力で圧倒的というものもない。


 18歳になって成人と言われても、これはダメだ、あれはやるなと、さほど自由もない。

 免許を取っても車は買えないし、その金があれば貯金か投資に回すだろう。



 社会の現実と向き合うことを強制され始める。

 大学でもう4年時間を稼ぐのか。4年早く出て、お金やスキルを稼ぐのか。

 自分は、後者にベットすることにした。


 この頃から、音楽に限らず趣味は趣味で、本業のことを意識し始める。

 とりあえずは、給与と休暇のバランスが良い公務員が無難な線で考えていたが、最近は高卒公務員は、なかなかだと聞いた。

 民間の技術職なら、手に職を持てば食いっぱぐれないだろう。

 すると、車の修理工かな。今は修理じゃなくて、部品交換がほとんどなら、なんとか出来そう。


 じつは動画で、事故車を直す動画が大好きで、よく見に行く。

 追突されたリアやサイドを、引っ張りながら徐々に元の姿に戻っていく動画に心引かれる。

 これなら、好きと仕事を両立出来ないかな。


 その動画の修理工場がたまたま県内の工場で、そのことをSNSで呟いたら、DMが入ってきた。

 その車の修理工場は、DMくれた人も近くという偶然で、動画も見てくれていたようだ。


 内容はインディーのゲームを一緒に作ってみないかというお誘いだった。

 正確には、ゲーム中の音楽を任せたいという内容だ。

 今はメジャー大手に限らずインディーも熱いので、有りかなとも思った。

 『八番出口』は、かなりハマった。


 そうか、有名ゲームメーカーは無理だけど、インディーなら入り口は広いかも知れない。


 ちょっとしたバイト感覚だから、お金にはならないだろう。

 ただ、新しいことを始めるのは、ワクワクする。


 詳細を聞いてみると、

 打ち合わせはなるべく直接やり取りしたい

 作業途中だけど、ゲームをプレイしてイメージしてみてほしい

 など。


 とりあえず行動してみないと、詳細がわからない。イヤなら、断ればいいじゃないか。


 同じ県内、しかもそんなに距離は離れていないということで、待ち合わせの約束をして、後日会うことにした。



 予定の日、少し早めに向かうと、すでに担当者が、待っていた。

 簡単に挨拶を交わし、さっそくインディーゲームの製作現場へ向かうことにした。


 そこは、雑居ビルの一室。決して最新のビルではないが、かといって、エレベーターはキレイで廊下もキレイなビルだ。


 部屋に通され、中へお邪魔すると、別のメンバーが、迎えてくれた。


「はじめまして、きもとと申します」


「わあ、会えて嬉しいです。中野と申します。動画、見てますよ」

「改めて。小塚と申します。基本、自分が窓口になります」


 とりあえず、いろんな話を聞いて、総合して判断して、参加するかどうか決めよう。


 お二人が、シナリオ、キャラデザ、プログラムを作り、音楽だけは外注することにして、自分に目が止まったそう。


 もちろん他にも音楽の作り手はいるものの、直接の打ち合わせが可能とか、僕の音楽配信を見て、二人が共に良いと認めてくれたとかの偶然が重なって今に至る。


「初めてのことなので、何処までやれるかはわかりませんよ? 期待外れってこともあると思います」


 リーダーの小塚さんは、肩をポンと叩いて言ってくれた。

「まず、楽しむ。もっと言えば、厳しい予算やスケジュールも楽しむ。出来ないことも、楽しもう」


 そこまで言ってくれたので、決心が着く。

 ここまで来たら、勢いだろう。最悪、出来なかったら土下座しよう。


「わかりました。期待に沿えるかわかりませんが、頑張ります」

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