第40話

 それでも納得がいかない麗美は一郎が確実に不在の間、午前中に家を訪ねることにした。置手紙でもすれば免罪符にはなろう。


 車中、ランダム再生の懐かしい歌謡曲が流れてきた。よく聞いた曲。一郎と出会って間もないころ、好きな歌手でもなんでもないのに、世間で流行っていたから、至る所で耳にした。サビの部分なら歌詞も覚えている。


 あの頃、なんで一郎を好きになったのだろう。


 父親から不動産業を継ぐようにいわれていたわけでもない。それに似つかわしい、男を探せといわれたわけでもない。大学の文化祭で知り合って、電話番号を交換し業務連絡を繰り返すうちに、自然に付き合うようになった。


 凹凸のない、というか、毎日決まって飲む、味噌汁みたいな、なんとなく飽きのこない、普通の男だった。


 それなり、の男とつきあったことはある。麗美の実家に負けず劣らずの金持ちで、しかし鷹揚な坊ちゃんではなく、躾でそうなったのか、案外、アニマルスピリッツが旺盛で、それこそ父親が気に入るような人だった。周りも納得している、ハイソ同士のあの二人は結婚すると。


 でも、別れた。


 当時は第六感だよりに別れたけれど、今ならちゃんと理由を説明できる。麗美が欲しかったのはごく普通の家庭だったから。刺激よりも平和な毎日だったから。


 突然、歌謡曲が止まった。

 電話が鳴っている。知らない番号だった。


「もしもし…」


「失礼します。わたくし、〇社の者でございます。奥様でいらっしゃいますか」


「はい、家内でございます」


「課長が出勤しておらず、連絡がないものですから」


「え?」


「奥様もご存じないのですか?」


「いえ…申し訳ありません、今、運転中ですぐ連絡さしあげますから」

 麗美は電話を切ると、胸の鼓動を感じながらアクセルを押した。


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