第23話

「課長、よろしいでしょうか」


 浮ついた顔の一郎の横に女子社員が立っていた。


「…ああ、はい」


「明日から3日間、お休みいただきたいんです」


 景気に敏感なうちのような弱小商社は取引が減って、若干ヒマになっている。今なら業務に支障はない。


「総務に届け出してもらって、明けの出勤は来週の月曜、ということで…」


 彼女はペコリと頭を下げた後、紙を1枚、そっと机に置いた。

(ご相談があります、退職の件です。今夜、お時間とれませんか)

 え、なんで、と顔を上げる前に彼女は小走りでデスクに戻っていた。



 仕事中は目立つ美人というわけでもなかったのに、服装とメイクで別人になっていた。

「キミは確か、入社、5年目?」


 普段は飲まないワインの酔いだったが、なんとなし気分は良かった。

 職場の部下と二人で会うのは本来はご法度だ。ましてや酒席を設けるなんて、誰かに見られたらトンデモナイ事態になる。


 しかし退職となると、一郎の評価が高かったが故に理由を聴かなければならない。彼女は、いわゆる、デキル社員なのだ。


 外観の目立たないイタリアンの店だった。はじめての店だったし、ここなら会社の人間に会うことはないだろう。


 しかもたいした美形に変わっている。気づかないかもしれない。


「結婚かあ」


「古臭いですけど、親に勧められて。お見合いなんです」


「おめでとう…とはいえ、優秀な人材が去るのは残念だけど」


「課長、そんなふうに思っていただけるんですか。課の人からはヤバい女だと思われていたから」


「何がヤバいの?」


「だって仕事ができるって、女じゃ怖がられるから」


「いまどき?まさか」


「案外そうなんですよ。うちの会社って古臭い」


 まあ、そうだね、と同調するわけにもいかず、ちょっと沈黙して後、白皿のカモ肉を口に運んだ。


「課長みたいな人だったらなぁ。高望みですね、ワタシ、素敵な奥様…」


 肉の咀嚼が一瞬、止まった。


「まあ、まあ、うちのことはいいから」


「知ってますよぉ。お金持ちで容姿端麗で…」

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