第20話 制御不能な感情
「伊吹。現状、君しかそいつを見ていないんだ。僕たちはどんな顔なのかどんな背丈なのか…何一つわからない。つまり今頼りになるのは伊吹だけだよ。」
蒼乃の緊迫した声に伊吹は舌打ちしながら首を振る。
「んな事言われても…俺…なにも出来ねぇよ。」
「うん、わかってる。なにかしてもらおうと思っているわけじゃないから安心して。」
蒼乃はしばらく考えて横で寝ていた緋色に声をかける。ずっと起きていたのだろうか、緋色は素早く立ち上がり蒼乃をじっと見下ろす。
「こいついつも寝たフリをしているな…」と思いながら伊吹は呆れたように視線を逸らした。
「……見回りに行くしかないですね。とにかく行動しなければ。」
出ていこうとする緋色を蓮が手で阻止する。
再び床に座らされた緋色は思わず震えてしまいそうなほど冷淡な目つきを向ける。しかしその眼差しにも蓮は一切屈しない。
「話を聞いてたならわかるだろ。そいつはいつ姿を表すかわからないんだぞ。安易な気持ちで外にまた出てみろ。次はお前かもしれないってことを忘れるなよ。」
「…だからこそ行くんでしょう。いつ姿を表すかわからないからこそ探しに行くべきなんです。嫌ならあなたはここにいればいい。ただそれだけの事です。」
緋色の言葉に蓮は黙り込んだ。ならもう勝手にしろと言わんばかりに背を向け床に寝そべる。
緋色は無関心そうに外に出ていき蒼乃と伊吹は無言で目線を交わす。
「……俺らも行った方がいいのか?」
「…いや。緋色に任せてみよう。心配だけどきっと緋色なら大丈夫だろう。僕たちは待機していようか……」
言葉をいい終える前に揺れる視界に頭を抱える。
頭が割れるように痛い。直感的に蒼乃は気づく。
自分にも謎の現象が来たのだと。
立てないほどの痛みを押さえながら伊吹に倒れるように寄りかかるが、支えきれずに床に押し倒されてしまった。その音にみんなの目が覚め、驚いた顔で二人を見つめる。
「な、なんだ…?蒼乃、大丈夫か?」
蒼乃を揺するが既に意識がない。彼の冷や汗が額を伝って床に落ちていく。
「蒼乃くんも…?」
雨音の声に、おそらくそうだろうと伊吹は頷く。
蒼乃を寝かせ汗を拭ってあげるが顔色は依然として悪い。
「…クロの存在といい、ぶっ倒れる現象といい…俺たちはどうしたらいいんだ…。謎に謎が被さってよくわからないな…」
その時、バタンと勢いよくドアが開く。立っていたのは血まみれの緋色だ。深く怪我をしていて荒い息を吐いて疲れ果てたように床に座り込む。
「だから言っただろ!簡易な気持ちで外に出るなって!」
蓮はそう言いながらもありとあらゆる方法で止血を試みる。何があったのかと言う問に痛みを堪えながら口を開いた。
「……伊吹が言っていた…あの存在…触れてはいけないと思います…」
「……どういうことだ?あいつを見たのか?」
「…はい…ですが…あまりにも簡単に姿を現しました…きっと彼はこの状況を楽しんでいるんでしょうね…」
緋色の言葉に伊吹の目が怒りに燃える。
楽しんでいる?この状況を…?歯を食いしばりながら自然と足がドアに向かう。
"許さない。絶対に許さない。"
その気持ちに心が支配される。
「…どこへ行くんですか…」
ダメだ。と言うように伊吹の手を力なく掴む緋色の手は少し震えているようだ。
「…俺も行く。お前をそんな風にさせやがって…絶対ぶっ殺す。」
ぎゅっと腕を掴む緋色の手を乱暴に振り払う。
そして伊吹の体が勝手に動き、一心不乱に外に飛び出していく。
「伊吹!!」
みんなの叫び声に気付かないふりをして。
彼の後ろ姿は瞬く間に消え去ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます