第15話 警戒せよ

「さて、ご飯も食べた事だし…僕は工作でもしようかな」


蒼乃は骨と毛皮に向かいドサッと座り込む。

伊吹は興味深そうに後ろからそっと覗き込み,好奇心に満ちた目でその様子を見守っている。


「何作んの?」


「…とりあえず椅子と机かな。それを作るのには木が必要だけど…伊吹、手伝ってくれない?」


「…いいけどどうやって木なんか…」


「…地道な作業になるだろうけどナイフで切り倒すしかないな。幸いそんなに太くない木だし、頑張ればいけるだろ」


蒼乃と伊吹、そして緋色の三人は近くの木を切り倒すために移動する。本当に切り倒せるのだろうか…伊吹は無心で木にナイフを振りかざす。

地道すぎる作業に伊吹の心の方が先に折れそうだ。

しばらく無言で木を切っていた伊吹は諦めたようにサボりだす。地面の砂で絵を描いていたが、強烈な眼差しに顔をあげる。


「やあ。伊吹くん。」


ニヤッと目の前で笑うあの少年。伊吹は再びゾクッとした感覚に溺れる。


「やっぱり幻覚じゃないな…お前は…誰なんだ…」


「さあ…クロって呼べばいいよ。適当に。僕に名前はないからね。」


クロと名乗る少年は遠くにいる蒼乃と緋色を見つめる。まるで深く心をのぞき込むかのような眼差しだ。なにかの異変を感じたのか緋色は素早く警戒態勢を取っている。しかしどことなく動きがぎこちない。蒼乃も同様、耳をすまして見渡している。


「……来るよ。」


少年の言葉が終わるやいなや、四体の怪物が三人向かって走ってきている。耳を塞ぎたくなるような雄叫びに顔が歪む。伊吹は我に返りナイフを力強く握りしめ怪物目掛けて駆けていく。その後ろで蒼乃と緋色もあっという間に怪物を片付ける。三人の息はピッタリだ。怪我がないことを確認すると一気に肩の力が抜ける。クロはやはりいなくなっていた。


「…今日は厄日だな。どうしてこんなに怪物が襲ってくるんだ…」


「…なぁ、やっぱり幻覚なんかじゃねえ。またあいつが現れた。」


「またその話…?まだ疲れが抜けていないの?呆れるな、本当に…。それにしても…何故か鳥肌が止まらないんだけど。」


身震いする蒼乃を横目に同意するように頷く緋色。伊吹は嘘偽りない口調で少年の名前がクロだと言うこと、クロはまるで怪物が来ることをわかっていたような様子だったこと。クロが現れると感じる恐怖心のこと、全てを話す。信じていなかった二人は徐々に伊吹の言うことに危機感を感じ、否定していた心が薄れていく。


「つまり私たちが悪寒を感じたのは近くにそのクロという方がいたのが原因だと…?姿は見えませんでしたが…色々と気になりますね。」


「あいつ、絶対何か隠してやがる。怪物も手懐けてるんじゃねぇの?来るタイミングがわかるなんておかしいだろ。とっ捕まえて拷問したいところだけど消えるようにいなくなるし…」


「伊吹、次そいつが姿を見せたら叫んでくれ。すぐに行くから。何か知っていることは間違いないだろうから少し話を聞く必要があると思う。それにしても次から次へと悩み事が尽きないな…疲れたから木は諦めてもう戻ろう。服も血まみれだし…帰る前に洗いに行こうか。」


三人は服を洗うため、泉に直行する。

次こそはクロを捕まえてやると心に誓い、深呼吸をする。それが大きな鍵になるかもしれない。



伊吹は月を見上げながらぎゅっと拳を握りしめた。

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