第6話 Myth∞Twinkle、集結!

 リリスは、少し早めにラウンジへ到着した。

 天井の高い吹き抜け空間。壁際の観葉植物が柔らかな自然光を浴びている。

 昨日まで魔界の赤黒い空の下にいたとは思えない空間。


「わあ……ここ、ホントにアイドルの住む世界なんだ」


 白いテーブル、揃えられたマグカップ、天井から降るジャズピアノのBGM――どこを見ても“日常”がキラキラしている。


 と、そこに足音。

 スリッパのリズムに、低く美しい声が重なる。


「……あら? 一番乗りだと思ったのに」


 リリスが振り向くと、そこには――ふわりとラベンダー色のツインテールを揺らす、少女……いや、**美少女にしか見えない“男の娘”**が立っていた。


「えっ!?女神様!?い、いや、でも……違う!?でも、可愛い!!いや、もう尊い!!」


「ふふ、ありがとう。あなたが……リリスちゃん?……ずっと会ってみたかったの」


 柔らかな笑み。整った顔立ち。声は高く、所作も美しい。けれど、どこかに中性的な芯がある。


春日優雅かすがゆうがです。女の子扱い、大歓迎だから気にせずに」


「あの……その、性別とか気にしないです! だって、すごく可愛いから! あ、変な意味じゃなくて!」


「うん、大丈夫。ありがとう。あなた、素直でいい子ね」


 リリスは“女の子に見える男の子”と、人生で初めて出会ったが――なぜか、どこか懐かしいような温かさを感じた。


 


「……集まってきたわね」


 ソファの向こうから、クールな声が届く。

 振り返ると、知的な雰囲気をまとった眼鏡の少女が、ノートを抱えて立っていた。


青山紗枝あおやまさえ。今回のユニットのリーダー、らしいわ」


「うわあ、かっこいい……!」


「感心する前に、ちゃんと敬語くらい使いなさい。初対面なんだから」


「あ、は、はい! わ、わたし、リリス・アルセリア=ファムっていいます!」


「異世界から来たって、ほんとなの?」


「ほんとです! 魔王と女神の娘です!」


「…………」


「…………」


「……すごい時代ね」


 紗枝は静かに眼鏡を押し上げた。ツッコミもせず、動じないあたりが大物感を放っている。


 


「やっほー! 異世界アイドル、発見~っ!」


 にゅっと飛び込んできたのは、ポニーテールの活発少女。

 肩までの髪を揺らしながら、無邪気にリリスへ抱きついてくる。


「わたし花園あみ! 異世界とか超好き! ついにリアルで来た!? やば、テンション上がるー!」


「ひゃっ……わ、わたしリリスです、よろしくお願いします~!」


「握手して! 魔界の土って美味しい!? 魔王って何食べるの!?」


「え、えっと、唐揚げ……?」


「人類と一緒ー!!」


 あみの勢いに圧倒されつつも、リリスはどこかホッとしていた。

 ここには“自分を受け入れてくれる人”が、ちゃんといるんだ。


 


 ――そして、最後に現れたのは、物静かな少女だった。


 肩までの黒髪を垂らし、顔は伏せがち。音も立てずに近づき、ソファの端にそっと腰を下ろす。


「……高槻凪たかつきなぎ。よろしく」


 それだけを口にし、手元のタブレットを操作していた。


 でも、その画面には――《リリス・アルセリア=ファム 発声周波数分析》と書かれていた。


(え、いつの間に!? ていうか何分析してるの!?)


 リリスの驚愕をよそに、凪はぽつりとひと言。


「歌声、面白い波形だった。好きかも」


 短く、でもまっすぐな言葉。

 リリスは頬が熱くなるのを感じた。


 


 そうして全員がそろったところで、重厚なドアが開く。

 クロノが現れ、静かに歩み寄る。


「よく集まってくれたな。今日から君たちは、一つのユニットとして活動してもらう」


「ユニット……?」


「名前は――『Myth∞Twinkleミス・トゥインクル』。幻想と現実が重なり合い、夢を灯す星々の歌姫たちだ」


「うわ……名前、かっこいい……!」


「アイドルとは、ただ歌って踊るだけじゃない。人の心に“物語”を灯す存在だ」


 クロノの言葉に、リリスはぎゅっと拳を握る。


「やります、わたし……! このメンバーで、夢を叶えたい!」


 その笑顔に、春日が優しく微笑み、紗枝が小さく頷き、あみが全力で手を振り、凪が静かに画面を閉じた。


 


 こうして――幻想と現実を繋ぐ、5人の少女たちによる新星ユニット

 『Myth∞Twinkleミス・トゥインクル』が、ここに誕生した。

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