1話 彼女が覚えてる記憶 出会ってから付き合うまで
不意に声をかけられた私にとって、その男性のプロフィール画像をみていた。
この人雰囲気かっこいいなーと思いつつも、何となく『こんにちは』と返事をした。
だいたいここで次にどんな事を言ってくるのか
様子を見てどんな人間かをいつもチェックしていた。それが私の性格である。
【猫みたいな雰囲気がありますねー】
彼は私の外見や雰囲気をみた印象で言ったのだろう。
私は、病気の為に気分の上がり下がりがあるが、たまたまその日は調子が良かったためふざけてみた。
『え?本当ですか!私が猫なら何くれますか?笑』
【キャットフード】
『私人間ですよ?マグロが好きだからツナ缶がいいなぁ』
『猫ならキャットフードで充分!ツナ缶なんて贅沢すぎますよ笑』
互いに一定の距離を保ちつつ
そういうふざけたメッセージのやり取りしていた。
会話をしていてもこちらの個人的な情報を何も聞いてこなかった。
そこにいる男達は皆下ネタばかりの話をもちかけていたから、病気も相まってかなり警戒心が高まっていた。
彼は違った。会話を出来ていたからだ。クラスメイト達がふざけ合ってメッセージのやり取りをしているかのようだった。私は普通に会話ができる相手が珍しくて楽しかった。
友達になれそうだなと思った。
そうすると彼からアクションがきた。
『そう言えば彼氏とかいるの?』
『今はいませんね?元彼が酷い人だったので。笑』
私はその時はいなかった。過去に酷い元彼が居て前に進めずにいたし、DV男と別れてからその後に交際した彼の事をわすれないでいたからだった。
今思うとあれは未練ではなく、塞がらない傷口を見えないようにしてくれる人が居なくて辛かっただけなのだろうと思う。
彼はまた質問をしてきた。
『そうなんだ、どんなやつだったの?』
私は話すか迷った。
(どうせ言っても相手が返答に困る内容ばかり…
病気のことだって理解されるわけが無い。)
今までの経験上、うんざりしていた。
妙に正義感を振りかざして正論を言ってくる人や
私が暴走した時に離れてしまう人が多かった。
でも私は話すことにした。
どうせネットだし話すことで何か意識的に変わるかもしれないと思ったからだ。
私は彼に元彼と3年間同棲していた頃の話をした。
仕事終わりで家に帰ると
洗い物を片付ける所から始まる。
夜ご飯は決まって残業をしていたので23時頃。
彼はずっと家にいてゲームをしていた。一人暮らししてた割に私が来てから何もしなくなっていた。
(わたしって雇われ家政婦じゃないんですけど・・・)
そんな私の嫌な顔、疲れた顔をした時、元彼はいつも同じようなセリフを私にあびせかけた
『何?おまえ喧嘩売ってんの?文句でもあるん?』
機嫌が悪いと怒声をあげ、何か私がミスをした時には私の座ってる目の前のテーブルを蹴り飛ばす。
ゲームに負けると怒鳴り散らし、その声が怖くて
私は彼のすぐ後ろにあるベットの布団の中で夜中
声を押し殺して泣いていた。
いつも怖かった・・・彼から受けた怒声が、、、
泣けば怒られる。泣かなくても怒られる。いつも何があっても弱音を吐かず笑顔を貼り付けて生活をしていた。職場でも家でも実家でも自分の感情を殺して生きていた。そうして私の精神は自覚しながら壊れていった。その事を彼に打ち明けた。
思っていた回答とは違った。
「それってもしかしてあなたのせいじゃないの?」とか「マジでそんなやつと別れて正解じゃん!」とか
っていうイメージがあったのに、彼は肯定も否定もしなかった。
【そうなんですか…じゃあ何か愚痴とか悩みとかあったら俺に相談してきてくだせぇ!】
私はその言葉を軽く受け流した、どうせ…という気持ちが強かったから。
私は彼に一言言った。
『これは私のことだから、私が1人で立ち直らないといけないの、他者を頼ったらダメだから。』
『そうなんですか…じゃあ何かあったらいつでもいってくださいませー。姫よ。』
私と彼は名前を教えあっていなかった為
おふざけの延長戦で姫と殿と呼びあっていた。
私はチャットを終えると夕方は家事とかをしていた為返信をやめた。
その日の夜、同棲していた元彼の連絡先を借金返済の相談をする時ように残していた私は、彼のプロフィールが更新されてるのが目に映った。どうやら新しい彼女が出来たみたいだった。
途端に何かの糸が切れたかのように怒りがフツフツと湧いてきて
(こいつだけは絶対に死ぬまで許さない、幸せになんて絶対なって欲しくない)
私は気が付くとチャット開けて何故か泣きながら彼へ音声付きメッセージで暴走した感情を吐いていた。
私は暴走すると気分がかなり落ち込んで死にたくなる。言われてもない言葉を勝手に脳内変換して被害妄想になり、思い込みの状況が出来上がるともうダメ。頭の中から声がして、私の存在を否定する声がする。落ちると底が見えない程までに落ちていった。そんな日常が当たり前だった。
真っ黒なドロドロした沼のような暗い場所に私はいた。
音声付きメッセージを聞いてくれた彼から返事が来た。
『そんなクズの為に死のうとするな。クズはクズの彼女しかつかない。生きて見返せばいいんだよ。』
(自分の為に怒ってくれる人なんて初めてだ)
私は正気を取り戻し、気持ちがだんだんと落ち着いていく。
『ありがとう…怒ってくれて。死にたいとかいってごめんね。』
【いいよ?俺こそ怒ってごめんね】
(なんで彼が謝ってるんだろう?…)
謝るのはこっちなのに、私は不思議に彼を見ていた。だんだんとチャットで知りあった彼に対して暴走してしまった事に罪悪感を感じた。
(やっぱり人と関わるのは駄目だぁ…彼に迷惑を掛けてしまう)
私は彼を突き放す言葉を言った。
『私精神病だし、また迷惑かけてしまうから嫌だったらブロックしていいよ?』
自分を否定されるのが怖かった…
大抵は人間はここで「じゃあブロックするわ」みたいなこと言われてブロックされて終わる。
でも彼の考え方はちがった。
【精神病だから何?なりたくてなった訳じゃねーじゃん、それに本音じゃないでしょ?ブロックしてくれていいなんて。】
私はビックリした。
私の本音を見透かされてるような気分だった。
【自分の考えを押さえ込んでも疲れるだけでしょ?俺には言いたい事があれば素直にいってくれたらいいからね。】
(なんて優しい人なんだろう)
汚れてしまった心を洗い流されてるようだ。
考えることをやめていた私にとって
その言葉がとても嬉しかった。
『わかった!ありがと。えーっと名前なんて言うの?』
【ひろでいいよ、あ!そう言えば俺も名前聞いてないや!名前なんて言うの?】
『私はあすか!よろしくねひろくん!!』
自分の為にあんなに怒ってくれる男性は初めてで
とてもいいなと思っていた私は
彼に質問をなげかけた。。
【ヒロくんってさ、どういう人が好きなの?】
『あー。ゆるふわ系のショートヘアーな女性かな?』
【ショートヘアの女性好きなんだ!芸能人でたとえるなら?】
『大原櫻子さん』
【カノジョがなんとかに出てた人だっけ??】
『そうだよー』
(なるほど、、、確かに大原櫻子さんはゆるふわ系だ。)
【普段、家では何してるの?】
『俺、一人暮らしだから料理作ったり、掃除したり、部屋の片付けとかもしてるよー。』
【料理作れる上に一人暮らしなんて尊敬!!】
『仕事の日は簡単なやつしかつくらないよ。鍋とか卵焼いて、ウインナー焼いて朝食メニューとかー。』
【すごいね!!】
【外とかいかないの?遊びに行ったりとか】
『うーん行かないかな。用がない限りは外にいかないし、友達もいないからねー。』
【私も友達いないから一緒だ!パチンコとかは?】
『パチンコもいかないし、風俗とかキャバクラとかもいかないな。俺人見知りだから風俗とかキャバクラのあーいう空気感苦手でさー。』
私の質問に素直に全部答えてくれた時
何だこの理想の男は!と私は思った。
さらに聞けば彼は今では古臭いと思われるが
男たるものは!という定義で育っていた為
私は彼のことが益々気になり始めた、この人が彼氏だったら幸せだろうなーと思った私は
彼に質問を続ける。
『ひろくんはどこ住みなの?』
『おれ?滋賀県だけど?』
『うわぁ、ちょっと遠いなぁ。えー。』
関西弁だから私は同じ大阪だと思い込んでた為
ショックだった。
『え、なんで?』そういう彼に私は
『好きになる前に聞けてよかった』
そう答えた。
素直にそう思ったからだ。
今まで近距離恋愛が多かった私にとって
遠距離恋愛は絶対に出来ないと思い込んでいたから
それでも彼との連絡を途絶えたくなかった私は
彼と友達でもいいから仲良くしていたいと思い
勇気を振り絞って伝えた。
『迷惑かけちゃうかもしれないけど、あの、もし良かったら連絡先交換しませんか?』
彼からの返事がきた。
『いいよー?ただ俺通話苦手だからそれでも良ければ!』
私は嬉しかった反面、(何故通話が苦手なのだろう)と思った。
彼は私の話は聞いてくれるが自分の話は一切しなかった。まるで何重にも壁を張り巡らせてるかのような感じだった。何か彼にも嫌な過去があるのだろうかと、直観的なもので察した。
そうして私たちは出会って1日半くらいで
連絡先を交換するほど仲良くなっていった。
彼と話してる時だけは自分が病気だとか過去や今の嫌な事を忘れられていた。
話せば話すほどお互いに似ている所が多く
彼からも
『返事を楽しみにしている自分がおるなぁ』など
脈アリサインと呼んでもいい程のアクションがあった。
そんな彼に私はドキドキしている…。
初めての感情だった。
これが純粋な恋なのだと後に気付く。
そうして私たちが恋に落ちるのにそう時間はかからなかった。
2日目の朝の休日。
目を覚ました私はすぐに携帯をひらけ
ひろくんから通知が来てるのに気が付いてLINEを開ける。
『まじであすかのこと好き。一生泣かせないって保証はないけど、泣かせた分笑わせるから。だから結婚前提に付き合って欲しい』
私はビックリした。すごく嬉しかった。
精神疾患を患ってる私からすれば思っても無かった出来事だ。
『こんな私でよければ宜しくおねがいします!でも声聞きたいな』
すると彼はムスッとした絵文字で
『こんなじゃない!あすかがいいの!』
そう言ってくれたのが凄く嬉しかった。
彼からも通話しようと言うことになり私達は通話で初めてやりとりをした。
声を聞きながら話をしていると楽しくて
心がポカポカするような居心地のいい気分だった。
こうして私達は9月10日に付き合うことになった。
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