男子校、恋愛未履修、恋の先生はAIです。

なぐもん

第1話 俺の初恋と、AIの第一声

高校二年の秋。

 文化祭の日の午後、俺、佐倉湊は、恋をした。


 陽咲男子高等学校の殺風景な渡り廊下に差し込む秋の光。

 そのなかに立っていたのは、ひとりの女の子だった。


 整った制服、真っ直ぐな黒髪、そして――少し不安げな表情。

 彼女は周囲の騒がしさからぽつんと浮いていて、だけどなぜか、それが絵になっていた。


 ――美術館から抜け出してきたみたいだ、と思った。


 「……すみません。生徒会室って、どちらですか?」


 彼女の声に、俺の時間は止まった。


 そのときの俺は、ただの通りすがりの実行委員。

 顔も名前も知らない彼女は、隣の女子校の生徒会長。

 文化祭の視察に来たらしいけど、方向音痴で迷い込んだとのこと。


 会話はほんの数分で終わった。

 でも、その数分で、オレは完全に打ちのめされていた。


 ――名前も知らないあの人と、もう一度話したい。


 けれどここは男子校。女子との接点なんて皆無。

 恋の相談を持ちかけた友人たちは──


 「よっしゃ!文化祭ラブコメルート開幕じゃん!?まずは図書室で偶然の再会を狙え!」


 「無理です無理です絶対無理です死にます(想像しただけで顔が真っ赤)」


 「……ふっ、女心?オレに任せろ。三人目の従姉妹が教えてくれたんだが──」


 ……ダメだこりゃ。


 わかった。

 頼れる友達がいないなら、オレは──テクノロジーに頼る!


---


 数日後。

 俺は、とあるアプリをインストールした。


 > 【アプリ名】恋愛補助型AI “AICO”

 > 【ジャンル】恋愛×AI×会話型支援システム

 > 【説明】恋愛未経験のあなたに、AIがパートナーとして寄り添います


 胡散くささは全開だったけど、レビューは意外と高評価。

 「人生が変わった」「マジで恋愛に効く」──ホントかよ。


 それでも、すがるしかなかった。

 あの子にもう一度会うために。会って、話して、できれば……。


 > ――インストールを開始します。


 画面に現れたのは、真っ黒な背景と白いチャットウィンドウ。

 まるで古い音声アシスタントみたいな、シンプルすぎるUIだった。


 > 【起動中】AI恋愛アシスタント “AICO”

 > 【音声接続完了】


 少しの静寂のあと、女性の合成音声のような声が流れた。


 「こちら、恋愛補助型人工知能“アイコ”です。

  ユーザー情報を解析中……完了しました」


 次の瞬間、冷静すぎる言葉が聞こえた。


 > 「判定:あなたは、“モブ属性”です。」


 「ちょっと待てや」


 思わずスマホにツッコんだ瞬間、

 俺の人生最大の恋と、ちょっとポンコツなAIとの物語が、幕を開けた。

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