第3話


 遊戯タクマの躍進は続いた。

 連日【ログインボーナス】なる物で身体能力、魔力の基礎能力が向上し、S級ダンジョンを単独で攻略できるまでに成長。


 その最中、ダンジョン内にて危機に陥っていた二人の少女を救い、その縁でクランを──フェアリー・ブレイドを設立。

 フェアリー・ブレイドは幾つものS級ダンジョンを攻略し、さらに第6次大規模侵攻においても活躍し人類に貢献。


 その結果、フェアリー・ブレイドは注目され遊戯タクマも国からその実力を認められ、約1ヶ月でA級まで昇りつめるのであった。


「あっという間だったな」


 ベッドの上で天井を見上げながら、タクマはこれまでの事を思い返していた。

 ラストダンジョンに選ばれてからの成り上がりストーリー。ヒロイン達との出会い。そして先の大騒動での主人公の様な活躍。全て彼の心を満たす様なイベントばかりだった。


「マスター?」

「何でもないよステラ」


 己に寄り添い、不思議そうにこちらを見上げる美少女の頭をゆっくりと撫でるタクマ。

 この少女はバーテックスの人間態である。タクマがレベルアップを繰り返した結果、手に入れることが出来た躯体である。

 ちなみにその姿は氷室セツナに酷似しており、タクマの願望が顕著に現れている。

 タクマはその少女の事をステラと呼び、愛していた。ベッドの上でお互いに全裸である事から、やる事はやっている事が伺える。

 ちなみに、他の二人ともやっている事はやっているらしい。


「なぁ、ステラ。この国は歪んでいると思えないか?」

「歪んでいる、とは?」

「国の特級に対する扱いだよ」


 先日の事件は特級達の存在無くては解決出来なかったと彼は考えている。特に氷室セツナ。

 しかし国は依然として彼女達を危険因子として扱い、セツナ達への感謝の言葉も無く虎視眈々と存在を消そうとしている、とタクマは感じた。

 さらに……。


「それに、あの影森クロトって奴……怪し過ぎる」


 タクマは思った。あまりにも都合が良過ぎる、と。


 これまで唯我独尊を体現していた特級達4人が、急に一人の男に夢中になるのが不自然だ。特に氷室セツナに対しては強く感じた。


 能力も強力かつ万能で、同じ人類なのか疑問に思っていた所に、彼が異世界人である事の露呈。

 本来なら即刻排除すべきだが、今回の事件を解決した立役者として見られているからか、そういう声は存在しない。


「おそらく、アイツは国が用意したナニカだ」

「なるほど……確かに不自然ですね。異世界人である事実を開示したタイミングも、元々国が容易していた、と」

「うん。初めから動かなかった理由も、特級を死なせる為の可能性が高い」

「加えて、あの者の使っている配信用ドローンも国が用意した代物。状況証拠は揃っていますね」


 特級達がクロトに注目しているのを利用して、とタクマは悔しそうに拳を握り締めた。


 元々タクマはクロトが気に入らなかった。アレだけの強い力を持っているのに、誰かを救う為に使う素振りが全く無い。タクマと違って。


 タクマは強くなってから、なるべく多くの人間を救う為に行動していた。

 探索者で配信をしている者は多く、それをステラに頼んで危なそうな娘を探して助けに行く活動を繰り返している。

 その結果、タクマの名は広まりつつあり、彼のファンを名乗る者も現れ始めている。それをタクマは素直に嬉しいと思っているし、そう想ってくれている娘達の為にこれからも頑張っていこうと思っていた。クロトと違って。


「流石ですマスター」

「ありがとう。……だから僕はそろそろ動こうと思うんだ」

「動く、とは?」

「もちろん──」


 タクマは、初めて出会ったあの日の事を思い出して言った。


「──セツナさんを救う為に」


 彼の声には並々ならぬ強き意志が宿っていた。





 クロトは悩んでいた。そもそもの原因は彼のここ最近の環境の変化にある。


 クロトの力が世間に知れ渡り、その際に出会った特級ことラスボス達に魅入られた彼は連日勧誘されていた。


「クロト様。昨日のおしお様の配信はご覧になりましたか? 彼女の天才ですわね!」


 例えば火ノ神カグラ。

 彼女は何時からかは分からないが、クロトの推しているVtuber潮しおのリスナーになったらしい。

 3日に一度家に来ては彼女の魅力を語り、その時間をクロトはそこそこ楽しんでいた。同じコンテンツを好む同士故に。


 なお、元々はカグラには別の目的があった様だが、どうやらミイラ取りがミイラになってしまったらしい。


 しかしクロトとカグラは同じ【しおまんじゅう(潮しおのリスナー名)】でありながらも、彼女の配信に対する視聴スタンスは違っていた。


「あぁ……おしお様の悲鳴は心を豊かにさせてくれます♡」


 カグラは愉悦勢であった。

 潮しおが日常アニメの皮を被った鬱アニメを見て悲鳴を上げれば口角を上げ、クソゲーで理不尽な死に涙目になれば胸の先が固くなり、コラボ相手に徹底的に弄られて疲労困憊になれば下腹部が疼く。


 カグラはどうしようもないドSだった。


「……」


 クロトは確かに可愛いね、と返すとカグラは目を輝かせて誘い出す。


「そうでしょうとも! 故にクロト様! 貴方も是非とも同士に!」


 持ち帰らせて検討します、とクロトはいつもの様に答えてカグラを追い出した。

 ここ最近はダンジョン関係に関する勧誘よりも、潮しお愉悦勢への勧誘に力を入れている気がしてならない。

 今日も「あ、千火桜嵐は入らないですよね?」と早々に話を切り上げる始末。何しに来てるんだろう、とクロトは思わずにはいられない。




 次に空閑アキラ。


「お前はアイツに似ている……」


 アキラは不定期に現れてはそんな独り言を呟いては居座る。クロトを通して誰かを思い返しているのか「……何故居なくなったんだ」「そういえばアイツも……」「ふん。確かアイツは……」と意味深な言葉を繰り返していた。


 それに対してクロトは正直言って──煩い。飽きた。面倒。と、思っている。


 初めは少し気にはなっていたのだ。アキラは唯一クロトの過去を知っていた人物で、かつての願いを知り、そして今の生き方を尊重してくれている。


 さらにはネット上でのクロトに対する誹謗中傷をしている者を特定しては、独自の技術を用いて制裁を下しているらしい。

 電子マネーで勝手に決済され、ピザの出前を送り付けられる者がたくさん存在しているとか居ないとか。


 その事をノア経由で知ったクロト自身、特級の中でもマシかもしれないと思っていた。だからある程度彼女の話に耳を傾けようとした。間違いだった。


「……いや、これはわたしの問題だ」

「ふん……アイツとの過去、か。また今度語らせて貰おう」

「──(何かを思い出している顔)」


 改めて言おう。クロトは、アキラの意味深な語り口に煩いと、飽きたと、面倒だと感じていた。

 それを彼女が満足して帰るまで延々と続けられるのだから疲れる。

 潮しおのゲーム実況を見ている横で「そういえばアイツもこのゲームを」と語り出した時は、流石に追い出した。このゲーム、発売して3日しか経ってないねん。


 なんか湿度高くて面倒な女。それがアキラに対するクロトの印象だった。



 三人目はナユタだ。


「うおおおおおおおおお! クロトぉおおおおおお! ヤらせろおおおおおおおお!!」


 シンプルに性犯罪者である。

 彼女の場合は家には来ないが、ダンジョンに潜ったら高確率で乱入してくる。全裸で。

 そして何処で知ったのかクロトの名を叫びながら性行為をさせろと迫ってくる。全裸で。

 しかし結局は戦闘になり、彼女は満足して帰って行く。全裸で。


 もし戦闘で負けたらどうなるのか? それは考えない様にしているクロトであった。




 そして最後にセツナ。

 クロトにとって一番厄介だと思っているのが彼女である。

 何故なら毎日来るのだ。それもこちらの都合関係無く。


 家で配信を見ている時……。


「クロト。散歩ついでにダンジョンを滅ぼさないか?」


 買い物に行っている時……。


「クロト。今日はすき焼きか? 良いな、ダンジョン素材を使っていないのがポイント高い。運動がてらダンジョン滅ぼさないか?」


 日雇いのバイトの時……。


「精が出るな。この後暇だろう? ダンジョン滅ぼさないか?」


 ダンジョンに潜っている時……。


「つれないな、私を呼ばないとは。よし、ダンジョン滅ぼすか」


 め ん ど く せ ぇ。

 この一言に限る。というよりストーカーである。他の三人も十分にストーカーだが、セツナは群を抜いてストーカーだ。

 毎日ダンジョン滅ぼそうと誘ってくる妖怪の相手にクロトは疲れていた。


 クロトはノアに聞いた。警察に聞いたから動いてくれるかな? と。


『国が匙を投げた相手を対処できるとでも?』


 ですよねー、とクロトは肩を落とす。セツナが飽きるまで耐えるしかないのか。

 そうクロトが辟易していると、冷たい魔力を感じ取り、セツナがやって来た事を察知した。

 恐らく時を止めてから此処にやって来たのだろう。セツナの能力を黒記燔濫で複写し、使用しているからか、クロトはセツナの時間停止を使用した時の独特な魔力の流れを感じ取れる様になっていた。


 クロトが扉の方へ視線を向けると、次の瞬間セツナが現れる。今度はどんな誘い文句でダンジョンを滅ぼしにいくのか、と待っていると……セツナの様子がおかしい。


「クロト」


 彼女は疲れ切った顔で大きなため息を吐いた。


「相談がある」


 そしてセツナはクロトに助けを求めた。


「ストーカー被害に遭ってるんだが、どうすれば良い?」


 クロトは、彼女の言葉に──。


「は? 自供? 何を言っているんだ?


 ストーカーしている人間から、ストーカー被害の相談をされるとは思わなかった、と心の底から思った。

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