第2話 風の民と古の約束

リリィに手を引かれ、春樹は森の中を走っていた。


すぐ後ろからは、木々を薙ぎ倒すような重低音と、まるで金属同士がぶつかり合うような甲高い音。振り返るまでもなく、異常な存在が迫っていることは分かった。


「はぁ、はぁ……!おいリリィ、マジで何が追ってきてるんだよ!」


「”影装兵”です。かつて封印されていた兵器類。貴方がこの地に現れた瞬間、封印が一時的に解かれたのかもしれません!」


「ちょっと待って!?俺が来たせいで兵器が復活したって言いたいのか!?」


「落ち着いてください。責めてるわけでは--今はまず、逃げ切ることが優先です!」


彼女の言葉に続くように、真横の木が破壊され、巨大な黒い影が姿を現した。


金属の鎧のような外殻に、無数の赤い目。手には槍のような武器。まるで”機械と魔獣が融合した”ような異形の存在。


「--影装兵、A-02……やはりまだ生きていたのですね」


「おい、こいつに勝てるのか!?」


「……普通なら無理です。ですが、ここには”風の祠”があります。間に合えば、あの力を--!」


「その祠って、あとどれくらい!?」


「すぐそこです!あと--」


リリィの声が途切れた瞬間、足元が崩れ、春樹の体は斜面を転げ落ちていった。


「はるきっ!」


リリィが叫ぶ。


転がり落ちた先で、春樹の頭の中に声が響く。


『聞こえるか、春樹……』


それは、聞き間違えようのない祖父・風間時蔵の声だった。


「じいちゃん……?」


『その手にある”風の鍵”は、ただの道具ではない。これはこの世界と、お前を繋ぐ”記憶の導き”だ』


不思議と、目の前の景色が変わった。まるで時が止まったような空間。浮かび上がる祠のような建物。そこに刻まれた、風の紋章。


『お前に託したのは力ではない。だが、その中に眠る”契約”がある。それを、思い出すんじゃ……”風の誓い”を』


声が途切れると同時に、春樹の手の中で眩く輝いた。


「--あれは!」


斜面を滑り降りてきたリリィが見たのは、鍵が風を巻き、祠の奥にあった装着が開く。中には一枚の石板と、風間時蔵の名が刻まれた碑文が。


「我、ここに誓う。この地を去る日、風に記憶を託す。未来を繋ぐ者が再びここを訪れることを信じて。」


祠から風が吹き抜ける。影装兵の体が徐々に崩れていき、やがて砂のように風に消えた。


リリィは春樹の方にゆっくりと近づき、深く頭を下げた。


「……風の鍵に選ばれし者、風間春樹。あなたこそが、”風の誓い”を繋ぐ者です」


その瞬間、春樹の胸の奥で、何かがカチリと音を立ててはまった気がした。


祖父が見た世界。祖父が守ろうとしたもの。

それはまだ断片的だが、たしかに--今、自分へとつながっている。

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