第2話 錯覚の檻の中
―この世界は、錯覚の檻の中にある。―
人間は次元を理解したと思っていた。
点を一次元と呼び、線を二次元と呼び、面を三次元と呼び、時間を含めて四次元と呼んだ。だが、それはただの記号にすぎなかった。
少年・凪(なぎ)は、それを「違和感」と呼んでいた。
教科書に描かれた図形。数学の定義。科学の理論。どれも整っているようで、何かが決定的に欠けていると、幼い頃から感じていた。
「一次元の点って、厚みがないっていうけど、本当にそう言い切れるのかな」
彼がつぶやくと、教師は笑って答えた。
「数学では、定義がすべてなんだよ、凪くん」
けれどその夜、凪の夢に**“響(こえ)”**が現れた。
――目覚めよ、凪。次元の誤認は、魂を閉じ込める檻だ。
声は言葉ではなかった。だが確かに意味を持っていた。
凪は見た。無数の点が重なり、線になり、面になり、立体になり、そして……そのすべてを包む「夢」があった。
そこには「終わり」という概念が存在しなかった。
夢の中で彼は「無限来夢(むげんらいむ)」という言葉を授かる。
――夢の中にこそ、真の次元がある。
だがその傍らには、もう一つの声があった。
歪み、叫び、軋むような声。
――無限地獄が来る。目を逸らせば、お前も堕ちる。
夢から覚めた凪は、冷たい汗にまみれていた。
周囲の世界は変わっていなかった。だが、自分の中の世界だけが明らかに“変質”していた。
教科書の中の「点」は、すでに存在していなかった。
彼は知ってしまったのだ。
点にも、線にも、面にも、厚みがある。
厚みとは、ただの物理的な次元ではない。そこには“存在”があった。
人間が定義した次元は、現実からの逃避だった。
見たくないものを見ないために。測れないものを「存在しない」とするために。
そして凪は気づいた。
この世界は「認識の牢獄」――。
その牢の鍵を開ける唯一の方法は、夢の中にある“響”を聴くこと。
そして、次元の先に広がる虚無を知ること。
だが、その虚無には「選別」がある。
無限来夢か、
無限地獄か。
そして、「虚無を発展させる者」だけが、未来に到達できる。
そのときから凪は、眠るたびに旅を始めた。
夢という名の、次元の外側へと。
――「認識」の檻を破り、「真理」へと至るために。
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