玉ねぎスマッシュ!

@nakamayu7

第1話 玉ねぎ王国の物語

 世界の端、あまたの像が支えるこの世界から海の水が滝のように流れ落ちる、そんな世界の末端に位置するところに玉ねぎ王国はありました。

 玉ねぎ王国と言う名前ではありますが、そこに住むのは人間でした。そこに住む人々はみんな玉ねぎを作っておりました。

 玉ねぎから砂糖を作ったり、油を抽出したり、乾燥して粉にした粉末玉ねぎは天ぷらやから揚げに使ったり麺になったり。多くのも物を玉ねぎから作ることで生活しておりました。

 当然、玉ねぎが主な輸出品でありました。玉ねぎ王国の玉ねぎは門外不出の種から出来る甘くて柔らかいもの、甘さは控えめで固いけれど保存がきくもの、赤色で辛いものなど、沢山の種類、特徴のある玉ねぎが1年を通じて豊富に生産されているのでした。その売り上げを使って玉ねぎ以外に生活に必要なものを輸入しているのでしたが、玉ねぎの輸出による余りある収入のおかげで玉ねぎ王国の人々は長年の間、豊かな生活を送ってきたのでした。

 そんな豊かな国があればそれを武力によって占領しようとする国があるのは人の世の常。ロシアのウクライナ侵攻もよってくだんのごとしってわけです。おっと話がれました。(笑

 ある日突然、隣国の王が率いる強力な軍隊が玉ねぎ王国に攻め込んできました。長く平和が続き戦争など長い歴史のなかで経験したことがない玉ねぎ王国に軍隊はありませんでした。住民はただおろおろして家に閉じこもり、丹精込めた玉ねぎの植わった畑を隣国の兵士が蹂躙して進んで行くのをただ見ているしかありませんでした。そんな状態であったから隣国の兵士たちはあっと言う間に王宮に迫ったのでした。

 王宮は城壁があり城門を閉じていましたからすぐに攻め込まれることはなく日が落ち、その日、隣国の兵士たちは王宮の外で野営やえいすることになりました。

 夜になりました。その夜は新月で、月灯りもなく野営やえいの松明がその周囲を照らすのみでその灯りの外は真の暗闇でありました。

 深夜、玉ねぎ王国の王は一面に広がる玉ねぎ畑を城壁から見下ろし、先祖代々王族にのみ語り継がれてきた呪文を唱えました。呪文を唱える王の声は真っ暗な大地に浪々ろうろうと響き渡ったのでした。

 その夜、玉ねぎ王国に攻め込んだ隣国の兵士たちは反撃がないことに安心しきってぐっすりと眠り込んでおりました。

 響き渡った王の呪文に応えるようにあちこちの畑から「ぼこ」「ぼこ」と何かが立ち上がります。それは頭に玉ねぎを頂いた人間の形をした兵隊でした。手に手に弓矢や刀、槍を持っています。その数、数万、数十万、いや数百万、いやいやそれ以上かもしれません。その玉ねぎ頭の兵隊は玉ねぎ畑の中を整然と行進していきます。めざすは隣国の軍隊が野営している王宮の城壁前。

 すっかり寝込んでいた隣国の兵士の頭上から矢が雨のように降り注ぎます。隣国の兵士は思わぬ夜襲に右往左往するばかり。松明を蹴とばす者、ぶつかって倒す者。倒れた松明は地面の上で燃え尽きて行きます。

 松明の灯りが消えて真っ暗になった闇の中から無数の槍や刀が隣国の兵士に突き立てられます。兵士はもう上官の命令を聞く余裕などありません。玉ねぎ畑を転がるように逃げ出します。そんな彼らに玉ねぎの兵隊が矢を浴びせかけ、槍や刀で突つくものですから堪りません。

 夜が明けました。王宮前、王宮へと続く街道、そしてその周辺に広がる玉ねぎ畑には、針ねずみのように全身に無数の矢が突き刺さり、無数の刺し傷から血を流して息絶えた隣国の兵士の亡骸が転がっておりました。その中には隣国の王の亡骸もありました。

 玉ねぎ王国の人々はそれらの亡骸をラベンダーの咲く丘の中腹に埋葬し、墓碑を立てて丁重に供養したのでした。



 多真恵たまえはこのお話を始めて読み聞かせてもらったのはいつのことだったか覚えていない。でも多真恵たまえは寝物語にお布団のなかでお母さんから読んでもらったこの童話が大好きで、まだ文字も読めない幼い頃から玉ねぎ王国が理想の国だと感じているような子であったし、今でも彼女の部屋の本棚にはこの童話が大切に並んでいる。そして中学生になった今でも時折取り出しては読み返していた。



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