第33話 好きになって欲しいギャル

「とりあえず落ち着けって」


「落ち着いてるよ?」


「……いや、どう見ても落ち着いてないだろ!」


 玄関でのキスの直後、俺は灯をなんとかリビングのソファに座らせた。顔は真っ赤のまま、しかし目は潤んで、しがみつくように腕に抱きついて離れない。


「悠斗……好き。だいすき……めちゃくちゃ、好き」


「わ、分かったから、とりあえず離れ──」


「やだっ!」


 ソファの上で灯がぐいっと俺の腕を胸の谷間へ押し込むように抱きしめる。ふわりと柔らかい感触が伝わり、脳が一瞬バグる。


「ど、どこ触らせてんだお前!?」


「悠斗が触りたいとこ、全部……触っていいよ?」


「いやそうじゃなくて!」


「……どうしたら、悠斗に好きになってもらえるの……?」


 ぽつりと、灯が呟いた。


 それはあまりにも真剣で、切なくて、胸に小さな衝撃がくる。


「あたし、ずっと、ずっと……怖かったの。悠斗に気持ちばれたら、今までみたいな関係が壊れるんじゃないかって。でも、もう……」


 もう我慢できない──そう、言外に伝わってきた。


 俺はなにも言えなかった。いつもの毒舌も、突っかかってくる態度もなく、ただまっすぐに好意をぶつけてくる灯の姿に、思考が追いついていなかった。


 すると突然、灯が立ち上がった。


「ちょっと待ってて……」


「え? どこ行く──」


「お部屋」


 そう言ってトタトタと階段を駆け上がっていく。その数分後──


「──ただいまっ」


 そう言って戻ってきた灯の両手には──


「は?」


「えっと……どれが好き?」


 そう言って床に広げたのは、色とりどりの下着の山だった。


 白、黒、レース、フリル、リボン、透け透け、Tバック風まで──見てはいけないものを見せられてる気がしてくる。


「な、なにやってんの、お前……」


「悠斗の好み、知りたいの。どれが好き? どれ着たら、可愛いって思ってくれる?」


 下着を一枚ずつ手にとって見せながら、灯は俺の顔をじっと見つめる。


「これは? レースでちょっと大人っぽいの。こっちは……透けててじっと見られると恥ずかしいけど、我慢するよ?」


「ま、待て灯! 落ち着けって! お前本当にどうした!?」


「ずっと好きだったの。一緒に暮らす前より前からずっも悠斗だけ見てたの。今まで我慢して、我慢して……でも、もういや」


 そして、そんな真剣な灯から目を逸らした時、ふいに黒のレースとリボンがついた可愛いさとセクシーが両立している一セットに俺の視線が向いてしまった。


「あ──悠斗、今それ見た。じゃあ、これがいいんだね?」


「いや、そうじゃな──」


「分かった」


 その言葉と同時に──灯が制服を脱ぎ始めた。


「え、お、おい!? なにして──!」


「着替えるね」


 ためらいなく、その場でブラウスのボタンを外し始める灯。


「まっ、待て!? ちょっと待て!?!?」


「恥ずかしいけど……悠斗のためなら、頑張れる。悠斗が、私を見てくれるなら」


 ブラウスが床に落ち、スタートのチャックを下ろすと同時にパサっと下におちる。

 そして下着姿になった灯が、照れているように頬を染めながら俺をまっすぐに見つめてきた


「わたし……もっと、可愛くなるから」


「灯……」


「好きになってもらえるように、努力する。だから……目、そらさないで。ちゃんと、私を見て」



 目の前には、見慣れたはずの女の子。

 ──けれど今は、あまりにも愛おしくて。


「……バカ。そんなことしなくて俺は──」


 やっと出た言葉は、それだけだった。


 でも、その一言で灯の頬がほんのり染まり、微笑んだ。


「うん、ばかでいいよ。悠斗のための、ばかだから」




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