日下に灯る推理 ― ふたつの事件と、ひと夏の語り ―

久世千景

死薬師と放課後に消えた少女たち

【プロローグ】

──また、見つかったらしい。

今度は、公園のトイレ。

制服のまま、うつ伏せで倒れていたって。


「ねえ、聞いた? 今朝のニュース、また女子高生だったんだって」


「でしょ? しかも、“原因不明の心停止”なんて……ありえなくない?」


「どうせまた、“死薬師しやくし”でしょ」


「しっ……! 声が大きいってば……」


昼休み、屋上の片隅。

誰に聞かせるでもない噂話が、風に乗って広がっていく。


「この前の子もさ、検出できない薬物だったらしいよ。

警察もどうにもできなくて、“自殺”で済まされたって……」


「……ホントに、そんな奴いるのかな。死薬師、なんてさ」


「でもさ……ただのウワサなら、こんなに続かないと思わない?」


「──薬で殺すのに、指一本触れずに、証拠も残さない。

それが“死薬師”だって……みんな、そう言ってる」


不気味なあだ名は、いつのまにか都市伝説になり、

そして気づけば、現実の死と重なりはじめていた。


風が吹き抜けるたび、遠くで誰かの囁き声が聞こえたような気がした。

“次は、誰が狙われるんだろうね”──そんな声が。

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