新たな同居人(と増える頭痛の種)
キラーナ星人――彼らは自らを「エルダール」と称した――とのファーストコンタクトから数週間。彼らは私たちの集落の近くに一時的なキャンプを設営し、地球環境の本格的な調査を開始した。幸いなことに、彼らは人類が遺したウイルスに対する完全な耐性を持っていた。
「ヒメカ様、エルダールの代表であるエルロン様が、再度面会を求めておられます」
セバスチャンが報告する。もう何度目になるだろうか、この「再度」という言葉を聞くのは。
「……分かったわ。通してちょうだい」
やれやれ、と心の中でため息をつく。エルロンは、真面目で誠実な人物なのだが、いかんせん石頭というか、融通が利かないところがある。そこはセバスチャンといい勝負だ。
「ヒメカ殿、本日もお時間いただき恐縮です」
リビングに通されたエルロンは、深々とお辞儀をした。その長い耳がぴこぴこと動いている。
「構いませんわ、エルロン殿。それで、今日の議題は何かしら? まさかまた、千年種の『不老不死の秘術』についてではないでしょうね?」
私が釘を刺すと、エルロンは少し気まずそうに視線を逸らした。
「……いえ、本日はそれとは別の件で。我々エルダールの一部を、あなた方の居住区に受け入れていただくことは可能でしょうか?」
「……受け入れる、ですって?」
予想外の提案に、私は眉をひそめた。
話を聞くと、彼らのキャンプはあくまで一時的なものであり、長期的な滞在には不向きだという。そして、千年種である私たちの生活様式や、この地球で生きる上での知恵をより深く学びたい、と。聞こえはいいが、要するに「居候させてください」ということだろう。
「まあ、私たちも退屈していたところだし、いいんじゃない? 新しい隣人ができるのも、悪くないだろうさ」
サヨは、どこか楽しそうだ。彼女は最近、エルダールの若い戦士たちに体術を教えているらしく、生き生きとしている。
「えー! 本当に? エルダールの人たちと一緒にお料理とかできるかな? 彼らの星の料理ってどんな味なんだろう!」
リリは、すでに目を輝かせている。どうやら、反対しているのは私だけらしい。
「……分かりましたわ。ただし、いくつか条件があります」
私は、エルロンに対していくつかのルールを提示した。互いのプライバシーを尊重すること、私たちの生活リズムを乱さないこと、そして何よりも、面倒事を持ち込まないこと。最後の項目は特に重要だ。
「もちろんです、ヒメカ殿! 我々エルダールは、決してご迷惑をおかけするようなことはいたしません!」
エルロンは、胸を張ってそう約束した。まあ、あまり信用はしていないけれど。
こうして、私たちの集落に、エルダールからの移住者たちが加わることになった。最初はぎこちなかった共同生活も、次第に慣れていく。エルダールの子供たちが、千年種の子供たち(といっても数百歳だが)と一緒にはしゃぎ回る声が、集落に響くようになった。
「ヒメカー! 見てみて! エルダールのエルウィンが、木の笛で鳥の声を真似してるの!」
リリが、緑色の髪をしたエルダールの少年の手を引いてやってきた。エルウィンと呼ばれた少年は、はにかみながら私に一礼し、そして本当に鳥そっくりの美しい音色を笛で奏で始めた。
「……上手ね、エルウィン。リリと仲良くしているのね」
「はい! リリ様は、僕にこの星の遊びをたくさん教えてくれます!」
微笑ましい光景だ。異なる種族が、こうして手を取り合って生きていく。それは、かつてレイや博士が生きていた時代には、想像もできなかったことかもしれない。
しかし、平和な時間ばかりではない。ある日、エルダールの若者たちが、セバスチャンのような高性能AIロボットを「解析したい」と言い出し、勝手に分解しようとして大騒ぎになったこともあった。
「セバスチャンは私の執事よ! あなたたちのおもちゃじゃないの!」
私が一喝すると、彼らはしょんぼりとしていたが、その目はまだ好奇心で爛々と輝いていた。まったく、頭痛の種が増えただけのような気もする。
「ヒメカ様、コロニー政府より定期通信が入っております。回線をお繋ぎしてもよろしいでしょうか?」
セバスチャンが、いつもの落ち着いた声で私に尋ねた。
「ええ、お願いするわ」
モニターに、宇宙コロニーの代表者の顔が映し出される。彼は、いつも通り難しい顔をしていた。
「ヒメカ殿、お変わりありませんかな? 実は、ご相談したい儀がありまして……」
その言葉に、私はまた新たな面倒事の予感を感じずにはいられなかった。
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