第8話 王子の歪んだ称賛と甘言と戯言に、遂に私、キレましたが?

彩夏の心の中で怒りの炎が燃え盛る中、アースラルト王子は相変わらず完璧な笑顔を浮かべていた。

その視線は、再びリリナに向けられる。

どこか慈愛に満ちたかのような瞳。


しかし、彩夏にはそれが、獲物を見定める狩人の眼差しにしか見えなかった。


「リリナ殿の歌声は、まことに素晴らしい。初めて耳にした時、この世のものとは思えぬほどの美しさに、私も深く感動いたしました…」


王子の言葉に、リリナは戸惑いながらも、わずかに頬を染めた。

褒め言葉に慣れていないのか、彼女は視線を泳がせ、控えめに微笑んだ。


(ちくしょう、リリナちゃん、純粋だからそんな言葉に騙されちゃうんだよぉ……!)


彩夏は、その光景を歯がゆい思いで見つめていた。

王子の言葉が、どれほど空虚なものか、リリナにはまだ分からないのだ。


王子は、さらに言葉を続けた。

その声には、称賛の響きの中に、じわりと不穏な色が混じり始める。


「しかし、そのあまりにも清らかすぎる歌声が、貴女をこのように危険な場所に誘い込んでしまったのかもしれませんな」


リリナの顔から、みるみる血の気が引いた。その言葉が意味するものは、リリナが持つ「歌声の魔力」、そしてその奥に秘められた「変異能力」のことだと、彩夏は瞬時に理解した。


王子は、リリナの純粋な歌声を褒めながらも、それが彼女を「利用」するための厄介な才能であるかのように語っているのだ。


「貴女の歌声は、民を惹きつけ、士気を高める素晴らしい力を持つ。しかし、それゆえに、多くの者たちがその力を欲する。争いの火種にもなりかねない。そうは思いませんか、リリナ殿?」


王子の問いかけに、リリナは言葉を失っていた。

彼の言葉は、まるでリリナの歌声が、彼女自身の災いの元凶であるかのように聞こえる。


そして、その視線は、リリナの歌声の奥にある、陸と水を行き来する変異能力を透かし見ているかのようだった。


(はぁ!?馬鹿王子!!てめぇ、何言ってんだ!?リリナちゃんの歌声は、誰かを傷つけるためのものじゃないだろ!)


彩夏は、王子の歪んだ理屈に激しい怒りを覚えた。

リリナの素晴らしい才能を、まるで罪であるかのように語るその性根。

それは、歌声の真の価値を理解せず、ただ利用することしか考えていない証拠である。


「貴女のような尊き存在が、自らの能力に振り回されることのないよう、私が守って差し上げましょう。この私のもとでならば、貴女の歌声、そして貴女のその特別な体も、きっと安泰です」


王子は、リリナの顔に、まるで救いの手を差し伸べるかのような笑みを向けた。


だが、彩夏には、それがまるで。


「私が貴女の力を管理してやる」


と宣言しているように聞こえた。


その言葉の裏に隠された、リリナの自由を奪い、その能力を徹底的に利用しようとする王子の本性が、醜悪なまでに露わになっているのが彩夏には見えた。


リリナは、王子の言葉の真意を測りかねているようだった。

不安げに揺れる瞳は、助けを求めるかのように彩夏に向けられた。

彩夏は、怒りで震える拳を、スカートの影で隠した。

今、ここで騒ぎを起こしては、リリナにさらなる危険が及ぶかもしれない。


しかし、このまま黙って王子の甘言を聞いているわけにはいかなかった。


(このクソ野郎……!!リリナちゃんの歌声のせいにするなんて、とんだ言い草だ。絶対、あんたの思い通りにはさせない!)

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