第6話 王子は洗練された仮面の下で笑う
王城の内部は、外観にも増して豪華絢爛だった。
磨き上げられた大理石の床には、陽光を受けて様々な色の光を放つ魔導石が埋め込まれ、壁には見事なタペストリーが飾られている。
彩夏は、その全てに目を奪われそうになったが、今はそれどころではなかった。
目指すは、この城の主、そして「推し」の運命を左右する性悪男が待つ謁見の間。
リリナは、緊張した面持ちで彩夏の手をぎゅっと握った。
彩夏は、その手にそっと力を込めて応える。
「大丈夫だよ、リリナちゃん。私がついてるから」
彩夏の言葉に、リリナは不安げに頷いた。
やがて、二人は重厚な扉の前に案内された。扉が開くと、広大な謁見の間が姿を現す。部屋の奥には玉座があり、そこに一人の男が座っていた。
「ようこそ、歌声の乙女リリナよ。そして、そちらは……貴女のご親戚とか」
玉座から立ち上がった男は、優雅な仕草で一歩前に進み出た。
彩夏は、その男の姿を捉えた瞬間、思わず息を呑んだ。
とんでもなく、バチクソなイケメンだった。
絵画から抜け出してきたような完璧な容姿。
陽光のような金色の髪は洗練されたスタイルに整えられ、深い青の瞳は知性と気品に満ちていた。
引き締まった体には、豪華な装飾が施された上質な衣装がよく似合っていた。
彩夏が、その涼しい上っ面をアッパーカッㇳで、即座にぶち殴りほどに、王子が笑っていなければ、の話だが。
「私が、この国の第一王子、アースラルトだ。遠路はるばる、よくぞお越しくださった」
アースラルト王子は、完璧な笑みを浮かべ、優雅に一礼した。
その仕草一つ一つが、非の打ちどころなく洗練されており、周囲の者たちも彼に見とれているのが見て取れた。
しかし、彩夏の頭の中では、警報が鳴り響いていた。
(うっわ、すんごいイケメン……!これは、リリナちゃんが惚れちゃうのも無理ないわ……!!)
彩夏は、王子がどれほど魅力的に見えようとも、その本性を知っている。
その完璧な笑顔の裏に隠された、戦争狂の野望と、リリナを利用しようとする性悪な魂を、彩夏は見抜いていた。
このイケメンの皮を被ったクソ野郎が、まさに自分の「推し」を陥れようとしているのだ。
リリナは、王子の洗練された態度に、少しだけ緊張を解いたようだった。
「アースラルト王子殿下。この度は、お招きいただき、誠にありがとうございます。そして、突然の来訪者である彩夏を、快く受け入れてくださり、重ねて御礼申し上げます」
リリナは、淑やかに、しかしどこか不安げな表情で王子に挨拶を返した。
その声は、どこか遠慮がちに聞こえた。
アースラルト王子は、リリナの挨拶に満足げに頷き、そして視線を彩夏に向けた。
その青い瞳が、一瞬だけ、底知れぬ冷たさを帯びたように見えたのは、彩夏の気のせいだろうか。
「そちらの彩夏殿も、どうぞごゆっくり。リリナ殿の歌声は、この城の者たち皆が待ち望んでおります。そして、いずれは……」
王子は、そこで言葉を区切り、リリナに意味深な視線を送った。
それは、まるでリリナの秘めた能力を見透かすかのような、不穏な視線だった。
(……いずれは、お前を骨の髄まで利用してやる、って顔じゃねぇかあああああ!!!!ぶち殴ろうか!!?その上っ面を!)
彩夏は、王子の完璧な笑顔の奥に潜む、冷酷な本性を見抜き、怒りに震えた。
このイケメンの仮面を剥がして、ド派手にアッパーカットを食らわせてやりたい衝動に駆られたが、今はまだ、その時ではない。
リリナを、この
彩夏は、心の中で静かに、そして強く誓ったのだった。
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