風俗嬢の仮面

 人から見れば、ただの風俗嬢だと思われています。

 演じるのだけは得意なんで、心底エロいことと男性が大好きな、淫乱女だと。

 まさか。そんな。とんでもないです。

 わたし、生粋のレズビアンですから。

 生まれつきそうでした。女の子にしかときめかなくて、初恋の相手も、歴代の恋人も、もちろん同性。今のパートナーもです。

 だから男性や男性器といったものには嫌悪感しかありませんでしたし、高校生のある日、ひと気のない路地裏で知らない男に犯された処女喪失時にも吐き気と涙が止まりませんでしたが、そんなわたしが時を経てこうして風俗をやっているというのは、自分でも不思議です。

 そもそも、男性と性的行為ができるのならバイなんじゃないかって言われるかもしれないですが、別にノンケの男の子だって売り専で働いたりするでしょう。一緒ですよ。物理的に可能なだけで、気持ちは一切入っていません。

 風俗を仕事に選んだ理由は色々あって、一つは楽だから。この労働は、全部流れ作業です。そもそもレズビアンのわたしからすれば、男性なんて"等しく興味のない生き物"ですから、どんな相手が来ようと平気です。心を殺して、ボーっと他のことでも考えながら、手や口による単純なピストン作業を繰り返すのみ。愛想の良い受け答えも笑顔も、全て別人格を作ってやってます。

 同僚はみんな、いわゆる"クソ客"に嫌な思いをされられて病んだり辞めたりしていくことが多いですが、むしろどうして?って思っちゃう。感情なんか使う必要ないのに。ロボットに徹するだけでいいんだから、こんなに簡単な仕事もないと思いますけど。

 それからわたし、粘膜接触に嫌悪感がないんですよ。嫌悪感、って言ったら語弊があるかな。特別感がない。ほら、わたし、レイプされたって話したでしょう。男性との粘膜接触はわたしにとってもれなく"我慢さえすればいいこと"になっちゃったから、キスでもフェラでも、なんか、どうでもいいんです。もちろん、パートナーとのそういった行為のときは別ですよ。プライベートではしっかり感情入れるので、好き、好きじゃない、気持ちいい、気持ちよくない、そこらへんはっきり言います。

 元々、学歴もないし、やっと就いた仕事も大抵長続きしないし──ええ、いわゆる社不ってやつです──、ついでに薬やって逮捕歴もあるから、一般企業ではない風俗という仕事はわたしにかなり合っています。

 見た目と営業スマイルだけが取り柄のわたしが、ここまでたくさん稼げる職は、ヘルスを除いて他にないでしょうね。

 今日も、バリバリ働いてきますよ。単純作業と時間の経過を待つだけの仕事に、ね。

 いま、パートナーと一緒に暮らしてるんですけど、わたしが養ってあげなくちゃならないので。二人の将来のために、頑張って貯金もしています。

 え?そんなに風俗が向いているならレズ風俗に勤めればいいじゃないかって?

 それは、ダメなんです。わたしの良心が許さないし、パートナーから、固く禁じられてますしね。

 男性相手なら、彼女も嫉妬しないみたい。さっさと稼いで来いって毎日言われてます(笑)。

 56歳、バツイチ、精神疾患持ち、詐欺横領での前科三犯。そんな彼女を支えられるのは、わたししかいません。

 そうですよ。わたしたち、獄中で出会って、付き合ってますから。

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