名前へのときめき

 どんな人がタイプ?って聞かれること、よくありますよね。

 うんざりするほど、世間話の中でかならず誰しもが一度は投げかけられた質問だと思います。

 普通の人は、正直に答えればいいんでしょうけど。

 私の場合、とても困っちゃうんです。

 タイプがないわけじゃありません、ちゃんとあります。それでも…どうせ誰にも、理解されないだろうから。つい答えに窮してしまうんです。


 見た目、年齢、体型、収入、頭の良さ…どれも、私にとっては全く重要じゃありません。

 ただし、たった一つ、これだけはどうしても譲れないものがあります。


 名前です。


 私、「裕二ゆうじ」って名前の男にしかときめくことができないんです。

 読みはもちろん、漢字も一字一句違わずこのまま。

「祐」も「悠」もダメ。「仁」や「次」でも不可です。

 前に付き合っていた男の名前がこれだったんです。彼は本当に理想の男性そのもので、私は毎日幸せの絶頂でした。

 そんな彼に妻子がいることが発覚し、あっけなく捨てられてからも、私はしばらく現実を受け入れられず、裕二の、いえ、裕二の偶像にすがり続けました。人生で二度と会うことのない、私にとっての最上で完璧な彼だったから。

 付き合っていた当時は、夜会うたびに彼の腕の中で、私は何度も彼の名を呼びました。暇さえあればメモ帳のいたるところに、彼の名を書きました。一字一字、いたわるように、いつくしむように。

 そうしているうちに、裕二という名前そのものに愛着と愛情を抱くようになったんでしょうね。

ゆたかさを願って名付けられた次男」、それが由来でしたが、この名を持つ人の多くは、似たような境遇だったのではないかしら。

 別れた後、いいなと思う男性も、言い寄ってくる男性もちらほらいましたが、どうも私の心は一向に震えなかったのです。

 原因は一つでした。

「裕二」じゃなかったから。

 それまでは、見た目における理想のタイプだとか、好みの年齢層なんかが人並みにあった私ですが、彼らが「隆弘たかひろ」や「良一りょういち」である限り、つまり裕二でない限り、全く振り向く気になれなかったのです。

 私は様々なツールを駆使して、裕二という名前を持つ男性との出会いを探し続けました。

 幸いにも、該当する男性とは何人かお付き合いすることができました。

 ですが、一度、付き合ってから偽名だったと明かしてきた人がいて…私の弾んでいた心は瞬時にしぼんでしまい、二度と彼の前には姿を表しませんでした。

 ええ、わかってるんです。

 ただの名前への執着にすぎないと。

 当初の裕二との幻想を捨てきれず、その名前にむなしい恋慕を投影しているだけってことに。

 だから今は、違う名前の人とも付き合ってみようかな、って考えてます。

 このままじゃ、いけませんものね。いい加減、自分も変わらなくちゃ。


 それでね、最近、少しいい感じの人ができたんです。性格は初代「裕二」に似ているけれど、しばらくぶりに、「裕二」じゃない人です。

 ただ、その人………「超銀河あんどろめだ」って言うんです。

 何なんでしょう、このキラキラネームは!

 本人は、別に何の変哲もない年上の男性ですが、親が天文学者なんですって…。

 事実、私は彼に惹かれ始めています。ベッドの上では何度も彼の名を呼び、やはりメモ帳には彼の名を書き連ねています。

 この先、もし……この彼と別れることがあったら、ゾッとします。

 探しようがないじゃないですか。そうそう見つかる宛もない。超銀河と書いてあんどろめだ、なんて。

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