第2羽 モテるって、異世界仕様!?


「初めまして。僕はロイ=フォレスター。ようこそ、異世界蒼天そうてん高校へ」


 目の前の金髪エルフ――ロイくんは、微笑んだまま軽く手を取ってきた。

 えっ、何この人、初対面なのに距離が近い! しかもその指、細くて綺麗で、まるで演奏者みたい……って、いやいや!


「うん、君が一色あやさん? なるほど、たしかに話題になるのもわかるよ。すごく可愛い」


 ――は?

 え、可愛いって、え、私? いやいやいや、絶対にこれはテンプレの挨拶か、何か……。

 周囲がざわついている。さっきから廊下の女子たちが「きゃああっ」って悲鳴あげてるけど、それ、ロイくんのせいだよね……。


「ロイ。人のペアに手を出すな。」


 低く、冷えた声。

 見ると、シウくんがロイくんの手をぴしっと払いのけていた。

 普段は無表情の彼が、眉をほんの少しだけ寄せている。……あ、これって、もしかして怒ってる?


「これはご挨拶だよ、シウ。心配しないで、僕は手段を選ばないけど、礼儀はわきまえてる」

「なら、節度を持て。」


 相変わらず、シウくんの王子様オーラが全開だった。というか、ロイくんも王子様みたいなオーラが漂っている。

 異世界に来て早々、二人の王子様が私の目の前で、睨み合ってる……。こ、これって、どういう状況なの――!?

 

「ふふっ、そうやって眉間にしわを寄せると、ますますあの時を思い出すな。……懐かしいよね、二年前の魔法大会」


 ぴりぴりとした空気に、私の背筋が凍る。えっ、なに、ふたりって昔から因縁がある感じなの?

 魔法大会って、やっぱり、異世界には魔法とかそういうのってあるんだ。


「ふーん、ロイがこんなに反応するなんて……」


 唐突に聞こえた声。だけど、聞き覚えがはっきりある。

 振り向くと、ミアさんが優雅な足取りで歩いてきていた。後ろには、取り巻きの女の子たちが数名、わざとらしく笑いながらついてきている。


「いつもはもっと冷たいのに。やっぱり珍しいものって、興味を引くのね」


 珍しいものって、私のこと?


「人間界からこの学園に来た子なんて、片手で数えるほどしかいないんだから」


 くすっと笑うミアさんは、やっぱり綺麗で、お嬢様らしい余裕がある。

 だけど、その言葉のひとつひとつが、胸に棘が刺さってくるようにズキズキしてくる。

 考えてみれば、確かに。地味で奥手で、まともに目を合わせて話すことすら出来ない私に、異世界の王子様たちが私に寄ってくるなんてふつうじゃあり得ないよね。

 

「それに、シウとペアだなんて、本当にもったいない。彼は、竜人の中でも最上級の名家のドラティール家なのよ。だから、あまり……勘違いしないでね?」


 返す言葉が見つからなくて、私は視線を落とす。

 私、何もしてないのに……。でも、何も言い返せないのが、悔しい……。


「そこ! まだ授業中よ? 席につきなさい」


 如月先生が、騒ぎを止めるために仲裁してくれた。

 今思えば、本当にそうだ。新しい世界、新しい種族。それにイケメンな王子様。夢のような舞台に、私は浮かれていた。

 でも、現実的に考えたら、私なんてただの人間。魔力もなければ、取り柄もない。それが、人間ってだけで珍しいという理由でちやほやされてるだけなんだ。

 そう考えてたら、自然と目から涙が出てきそうだった。ううん、零れ落ちてたかも。


 「そう下を向くな。レポートが提出できなくなる。」


 シウくんは目を逸らすように横を向きながら、ハンカチを差し出してきた。

 黒くて闇に包まれたようなハンカチだった。でも、すごく心が温かくなった。


「うん、ありがとう」


 自然と、言葉が出てきた。ネガティブなことばっかり考えてちゃ駄目だ。せっかく、新しい世界に来て、新しいことだらけなんだから、楽しまなくちゃ。

 それに、新しい自分になって羽ばたきたいって想って来たんだから!


    ◇



「気にするな。あれが彼女なりの表現だ。」


 授業後。レポートを作成しながら、シウくんはそう言ってくれた。

 ミアさんに言われたこと、気にしないようにって思っていた。けれど、やっぱり気にしないなんて出来ないし、心の奥で引っかかってる。私がさっき、しょんぼりしてたのを見てたのかな。

 でも、正論だからこそ、何も言えない。私は何の取り柄もないし、ここに来たのだって偶然で……。


「特別な感じがするんだ。」


 ぴたりとペンを書く手が止まって、シウくんが私を見た。いつものクールな瞳が、少しだけ揺れてるように見えた。

 ちょっと目線を逸らしながら、私に語りかけてくれた。


「君は……笑ってた。俺のことを、いや、竜人族に対して驚きながら、怖がらずに。あの時、教室で。初めてだ。そういう反応をする異種族は。」


 心臓が、またドキンって跳ねた。それって……それって、もしかして、ちょっとだけ褒めてくれたってこと?

 ……いや、でもたぶん、気のせいかもしれない。勘違いだったら恥ずかしいし!

 どうしよう。この間が恥ずかしくて、胸がムズムズしてきた。何か言わなきゃ。


「あの、シウくんって……どんな人なんですか?」


 やばい。ど、どうしよう。変な質問しちゃった! 気が動転して、おかしくなっちゃいそう。


「昔はドラティール家という、竜王の家系に誇りを持っていた。だが今は、無駄なものを削ぎ落とした。全て。」

「じゃあ、今の私は……無駄じゃない、ってこと?」


 ふと漏れた言葉に、自分で驚いた。また暴走しちゃった、私。止まれ、止まれっー!


 でも、彼はほんの少しだけ口角を上げて――。


「……少なくとも、騒がしくはない。」


 それ、ほめてます? てか、えっ、今の、笑った?


 シウくんが、私にだけ、笑った……!?


 や、やばい……なにこの世界。トキメキが多すぎて心臓がもたない……!

 こんなの今までだったら、無縁だったのに!

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