隣の席は、竜人プリンス様!

飢杉

プロローグ


 ――新しい自分になって、羽ばたきたい。

 そう想い、新しい生活でわくわくドキドキがいっぱいで、夢に期待を膨らます私。


 校門前の桜が、風にゆれて花びらが黒い髪の毛に溶け込んできた。私はその花びらを手で摘みながら、青空を見上げる。

 

「ついに、高校生かあ」


 中学の時はうまくいかなかった友人関係や、恋。だけど今日からは、ちょっとだけ特別。憧れだった私立蒼天そうてん高校に、なんとか入学できた。

 学校には、異世界に転生して帰ってきた先生がいる、という噂を耳にしたことがある。


 うーん。それって本当なのかな。パンフレットには、「異世界に興味がありますか?」なんて言葉が書かれてたけど、そういうブランド作りってやつなのかな。


 でも、もし異世界に入学できたらきっとワクワクしちゃうんだろうな。

 まあ、ありもしないだろうけどね。新しい環境ってだけで、不安でいっぱいなんだから。なんて言ってたら遅れちゃう。初日から遅刻なんて、絶対、嫌!


    ◇


 新入生オリエンテーションのあと、教室に案内される。やっぱり、異世界らしきことには触れていなかった。なんだ、ただのブランディングか。ってちょっとため息をしてしまう。


「おーい、何ため息してんのさ!」


 隣にいたのは、中学生の時に唯一できた友達の清水みほ。ふわっとした茶髪に、どこか抜けてる笑顔。ちょっと癒し系。

 私のことを鈍臭いやつ、なんて思いながらも気にかけてくれるんだ。春休みの時は、みほが「高校生になったら異世界へ行こう」なんて言ってたけど。勇気づけてくれてるのかな。

 確かに、みほはオカルト部だったから、異世界の存在を信じているらしいんだけど。


「今日の荷物、軽いけど大丈夫?」


 まったく。なに言ってるんだか。初日なんだから、教科書とかないのは当たり前でしょ?

 筆記用具ぐらいしか、持っていくものなんてないんだから。


「えー、では次に。今年度初の試み、異世界入学制度についてです」


 異世界入学制度……。 思わず目をぱちくり。そんな制度あったなんて、聞いてないよ!

 どうやら、学校の先生に異世界から転生して帰ってきたという噂は本当だったみたい。そんな先生が、異世界から帰ってきた時にゲートができた。そして、異世界との交流のために留学制度を提案したみたい。


「清水みほさん。選ばれた方は、二人一組なのでお友達を呼べると思いますが――」


 もしかして、みほが言ってたのって……。え、あれってそういう意味だったの!?

 何も考えずに、異世界なんてあったらいいなあ、って夢物語だと思ってた。


「中学の時に言ってたよね。新しい自分になりたい、異世界に行ってみたいんだって!」


 ありがとう、みほ。いつもは、その茶髪が羨ましいなんて思ってたけれど、今日はすごい輝いて見えるよ。

 で、でも私、荷物なんて持ってない!


    ◇


 そして――異世界のゲートへ。


 青白い光がふわふわ飛んでる。今まで見たこともないような、神秘的なゲートだった。そこを潜り抜けると……。


 ってあれ。蒼天高校とあんまり変わらない。ちょっとだけ、拍子抜けしちゃった。異世界だなんて言うけど、本当は同じ世界の別の高校なんじゃないかなって。


 そうして、私は先生に連れて行かれるがままに教室へ入る。


「では、先ほど説明した留学生を紹介します。自己紹介をどうぞ。」


 教壇から、教室を見渡すと……。鱗の生えた皮膚、頭から生えてる角、背中に白い羽。え、え、本当に異世界!? しかも、いろんな種族がいる。

 そして、窓から見える景色は魔法陣や、飛んでる種族が目に入る。なにこれ、すごい……。


「あ、えと……。一色あやです。よろしくお願いします……」


 うう、もっと自信を持って自己紹介がしたかった。けど、初めてなことばっかりで頭が真っ白になっちゃった。

 異種族、異文化、異常事態。ニュースやネットでは見ていたけど、まさか自分が本当に異世界へ行くなんて。


「……しっぽ、ある……」


 椅子から垂れている、黒曜石みたいな光を放つ、長い尾。

 それが静かに揺れた瞬間、私の心臓はドクンと跳ねた。


「隣の席になったんだね。よろしく。」


 低く、よく通る声。言葉はきれいな日本語で、イントネーションもほとんど違和感がない。けれど、その口元からちらりと覗く、鋭い犬歯のような牙に、私は小さく息を呑んだ。

 私、――竜人族さんと隣になっちゃった。


「お、お隣……。よろしく、お願いします」


 なんとか声を絞り出して挨拶を返すと、彼の銀髪から覗く瞳がほんの少しだけ、動いてるような気がした。

 笑った? それとも、違う?


 隣の席が、この教室が、あまりに非現実すぎて、頭が追いつかない。

 だけど、これが――私の異世界での高校生活の始まりだった。


 そしてきっと、恋の始まりでもあったんだと思う。

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