第6話
さて、そろそろパーティーメンバーと合流するか。
あまり時間を食っていられない。
……その前に、一応自分のステータスでも確認しておく。
【ステータス確認】
職業:勇者
レベル:9
HP:580
MP:150
攻撃力:62
防御力:80
魔力:33
素早さ:160
■所持スキル
・ワープ(既知の町への転移)
・経験値アップ Lv2
・スキルポイント増加 Lv2
・ステータス鑑定 Lv2
上位スキル
【スキルポイント残り:4】
■所持品
・スキルカード《逃亡者》
・食料 1週間
俺、ほんとクソ野郎だなって思った。
たしかにレベルは9になってた。
でもその内容、完全にあいつらのハイエナ経験値で上がっただけだ。
戦闘で誰かが敵を倒す。
俺は横で倒れたり、逃げたり、回避に専念してただけ。
それで勝手にレベルが上がって、ポイントももらえてる。
正直、俺自身の実力で得たものなんて、何一つない。
装備? まともに揃えてすらいない。
武器も盾もヒロインたちのおさがりか、初期装備に毛が生えたようなもの。
魔法も火力不足、剣も振り方がぎこちない。
……ここまで無防備で、よく生き延びてこれたもんだ。
いや、生き延びたというか――守られてきただけか。
戦闘面に関して言えば、俺はずっと安全圏でぬくぬくやってきたようなもんだ。
――※ただし、貞操面はずっとハードモードだった。
~~~
「ご主人様~、お待たせっ」
広場の向こうから、フランが手を振りながら走ってきた。
いつも通りのテンション。尻尾はぶんぶん。声の音量は無駄に元気。
だがその笑顔の奥には、“何か買ってきたぞ”感がじわじわと漂っている。
【ステータス:フラン】
職業:戦士
レベル:99
HP:7880
MP:220
攻撃力:9999
防御力:2480
魔力:90
素早さ:9999
■所持スキル
・戦士 Lv100
・獣人 Lv1
・探知 Lv10
■上位スキル
・忠義の絆: 守りたい相手がいるほど攻撃力上昇。(倍率:不明)
・脳筋:攻撃力×1.5倍
■所持品
・干し肉、ジャーキー、ササミチップス(大量)
装備
鉄刃丸(大剣)
攻撃力と素早さはカンストしているってわかっていたけど。
いや、うん。やばい。改めて見たら、やばすぎる。
ていうか戦士Lv100って何だよ。
普通、職業スキルって生涯かけてLv10いけるかどうかだろ!?
お前どんな生活送ってたんだよ!? 筋トレで人生終わってんじゃねーか!
しかも上位スキル、脳筋。
攻撃力に1.5倍補正って何だよ。カンストに倍率かけてどうすんだ。
さらに極めつけが忠義の絆。
守りたい相手がいればいるほど、火力が上がる。
当然、対象は――俺である。
バフがかかるたびに命の危険が近づく勇者って何だ。
結界を攻撃した時、あの森の破壊してしまったことも説明できる
敵どころか地形ごと吹き飛んでいたあの惨状。
理由は単純だった。
攻撃力カンスト × 脳筋(1.5倍) × 忠義の絆(倍率:不明 ※不明ってことが不安なんだが)=狂っている。
お前の“ちょっと”は物理法則壊してるんだよ……
こうして俺は、改めて理解した。
俺が戦う世界の中で、一番の脅威は――
味方だった。
現実から目をそらしたい。
いろいろ見なかったことにしたい。
だから、俺は話題を無理やり変えることにした。
「……そういえば。お前、“探知スキル”買ったんだって?」
サリエルの隠密さへの対策として買ったのであろう。
レベル10とは、人生1回分のスキルポイントを振っているな
「はいっ!!」
「今まで、スキルポイントを振ったことなかったんですけど、今までの分を一気に使うって、どきどきしました~!」
フランが元気よく答えた。
楽しそうに、目をキラキラさせながら。
――……え?
今……何て言った?
今までスキルポイントを振ったことがなかった?
じゃあ、戦士Lv100と脳筋って――
(条件達成で“自動習得”してたってことか!?)
この世界では、スキルの習得にはスキルポイントを消費する方法と、
特定の条件や戦闘経験によって自動で獲得する方法の2パターンがある。
ただし、後者のルートは普通の人間にはまず無理。
地道な努力、経験、修行、実戦、命のやりとりの積み重ねが必要になる。
しかもこの世界のレベル上限は99。
それも比較的緩い設計で、戦闘回数はそれほど求められない。
つまり、無駄な戦闘を、想像を絶するほど行っている。
フランは常人の域を簡単に超えており、意味不明なステータスになっているってことだ。
これ以上考えるのはよそう。
やばいことしかわからない。
~~~
「勇者様、待たせましたね」
セラは俺たちのところに向かっている。
【ステータス:セラ】
職業:僧侶
レベル:54
HP:1230
MP:7888
攻撃力:42
防御力:210
魔力:5304
素早さ:182
■所持スキル
・僧侶 Lv10
・探知 Lv2
・ワープ
■上位スキル
魔法の加護:自身の魔力を2倍に引き上げる強化スキル。
心臓の在処(ハートロック):相手の“肉体的弱点”および“精神的急所”を自動的に認識するスキル。
異次元の扉:異次元空間を1つ所持可能
■所持品
・聖印ペンダント
■装備
・ホーリーロッド(魔法杖/特効:不浄系)
・純白の僧衣(スリット深め/本人の趣味)
ステータスだけ見れば――セラは完璧だった。
MPも魔力も圧倒的。
回復支援から殲滅魔法まで、僧侶枠としては理想そのもの。
防御も決して低くなく、俊敏さはそこそこ、打たれ弱くもない。
……ただし、性格面がガチャで爆死していた。
言動は常に一定の理性があって、理論派のように見える。
けれど、発言の内容が一歩間違うと犯罪臭がすごい。
「探知スキルとワープを買ったのか?」
そう聞くと、セラは小さく微笑んだ。
フラン同様、サリエルへの警戒心からだろう。
あの女が気配を完全に消せる以上、探知スキルは最も有効な対抗手段になる。
探知スキルは使い込めば、スキルポイントを消費せずにレベルアップする。
難易度は高めだが、成長性はある。選びとしては正しい。……が。
「いいえ、実はワープ、前から持っていたの」
セラはあっさりと言った。
声は穏やかだが、その目は真っすぐこちらを見ていた。
「あなたに“希望”を持たせて、その上で失敗させてから支配したかったの」
「…………」
言葉の意味を理解するのに、しばらく時間がかかった。
理解した瞬間、全身から血の気が引いた。
(え、何この人……怖……)
さすがにフランの筋肉魔王スタイルよりは安全かと思っていたが、
こっちは精神攻撃特化型だったらしい。
「逃げ切れるって、期待しちゃいましたか? ――残念でした」
セラが小さく微笑んで、すっと顔を近づける。
その声はやけに耳に残る。
柔らかくて、落ち着いていて、それでいて妙にゾクッとくるトーンだった。
――精神攻撃ASMR、開始されました。
「逃げ切れると思いました? ……ふふ、それ、あなたらしくて好きですよ」
「“もう大丈夫”って思えましたか? 希望って、壊すためにあるんですよ?」
「安心してください。苦しみは、私がずっとそばで見ていますから」
「あなたが逃げても、私はちゃんと“見つけて”あげますよ」
「その表情、もう少し見ていたいな……壊れきる寸前が、一番綺麗なんです」
「“もう届かない”って信じ込んだ瞬間に、こうして囁かれるのって……気持ちよくないですか?」
「あなたの中に残った“逃げたい”って気持ち、私が“潰して”あげます。優しく、何度も」
「……ふふっ、気づいてないんですね。あなた、もう十分“気持ちよくなって”ますよ」
やめてくれ、そういうのに耐性がないんだ。
こっちは平常心を保ってるつもりなのに、脳の奥がぞわぞわして気持ちいいのやめてくれ。
(……なんで精神攻撃なのに、微妙に心地いいんだよ!?)
セラの攻撃は直接的な支配じゃない。
逃げ場を与えたうえで、それをじわじわ奪っていく。
そして最後には――快楽の味を、ほんのひとかけらだけ見せる。
その結果。
(ヤバい……依存心が無駄に芽生えそう……)
逃げても逃げても、どこかで「また来てほしい」と思ってしまう。
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