第5話
ルキウスは、続けて一方的に婚約破棄を宣言した。その口調には、一切の迷いも躊躇もなかった。
「よって、我々の婚約は今日限りで破棄とする。アスターディア公爵家には、改めて話を通す。君は、もう王宮にいる必要はない。今後は、自領に戻り、静かに暮らすがよかろう。また、王家から、わずかばかりの慰謝料は支払われるだろうから、それでお前の一生は安泰だ。もう一生会わないことだろう」
彼の言葉は、まるでセレナが不要な存在であるかのように響いた。彼の目は、セレナではなく、既にリリアーナへと向かっているかのようだった。しかし、その行為は、セレナにとって、まさに「自由への扉」を開くものだった。セレナは、心の中で歓喜の叫びを上げた。
(やった!これで自由の身!)
セレナの心は、長年の重圧から解放されたかのように、軽やかな羽根のように舞い上がった。目の前に広がるのは、王宮の閉塞感に満ちた日々ではなく、広大な草原で、自由に駆け回る動物たちの姿だった。彼女は、もはや誰の期待にも縛られない。自分の人生を、自分のために、そして何よりも愛する動物たちのために捧げることができるのだ。第二の人生は、今日から始まる。セレナは、その決意を胸に、静かに、そして確かな喜びを秘めて微笑んだ。その微笑みは、誰にも気付かれることなく、しかし、彼女自身の心の中では、まばゆい光を放っていた。
周囲は、突然の婚約破棄に悲鳴を上げ、セレナを憐れんだ。公爵令嬢として、王妃の座を目前にしての婚約破棄。社交界の陰口の的となることは明白だった。
侍女たちは、セレナの部屋の前で涙を流し、「セレナ様、どうかお気を確かにしてください!」「あのような薄情な王子様、こちらから願い下げですわ!」と慰めの言葉をかけた。彼女たちの心からの心配に、セレナは少しだけ胸を痛めたが、それもすぐに希望へと変わった。両親もまた、娘の将来を案じて深く嘆いた。アスターディア公爵家は、王家からの縁切りを恐れ、セレナにルキウス王子に謝罪し、婚約の撤回を懇願するよう促した。父は、「お前が王妃となれば、公爵家は安泰なのだぞ!この国の頂点に立つのだ!」と、娘を諭した。その目は、焦燥と絶望に染まっていた。母は、セレナの顔を見ては、悲痛な面持ちで溜息をついた。
しかし、セレナの心は揺らがなかった。彼女は、冷静に両親に向き合った。その瞳には、かつてないほどの強い光が宿っていた。
「父上、母上。私はもう、恋愛も、政略結婚も、一切興味がございません。私の人生は、動物たちのために捧げたいのです。どうか、私を王都から離れた領地にある、あの古い離れに移らせてください。あの離れは、動物たちを保護し、治療するための施設として、私に与えていただきたいのです。お願いします」
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