第3話 邂逅と最強

村で起きた騎士団との一件を解決するため、ニヒツは現在、オーク・ロードがいるとされる洞窟の入り口へと来ていた。


「これが全部…騎士団の…」


洞窟に入ると、直ぐに多くの白骨死体が目に映り、それだけの犠牲を出しても倒せぬ相手と言うことを思い知らされる。


「気を引き締めて行こう…」


そう身構えた瞬間だった、ニヒツの足元の地面が突然、そこの見えない海へと変化したのだ。


「うわぁ!」


ニヒツは突然の事で動揺こそしたが、直ぐに冷静になり上へ上へと浮上しようとする。


(ガシ!)


しかし、そんなニヒツの足を強く握りしめて引きずり込もうとするもが一人…


(この感触!?)


ニヒツの感じた摑んだもの違和感、その手触りはまるで”魚の鰭のようだった”。


「うぅぅぅぅ!!!」


しかし、その正体を確かめる隙も無く何者かはニヒツを海の底へ底へと凄まじい速度で引っ張って行く。


(この…ままじゃ…)


ニヒツは”想定外の事態により、絶対絶命の状況に立たされてしまうのだった…。


その頃村では…


「なぁー爺さん、あんた随分とあの小僧を信頼してるみたいだが、多分無駄だぜ。」

「なんでそない思うんや?」

「だって…あっしが渡した情報は、オーク・ロードのだけ…あの洞窟には、他にも厄介なバケモンがうじゃうじゃいるからなぁー。」


そう、騎士団達は最初から全て知った上でニヒツに教えることなく洞窟にいかせたのだ。


「そうか、まぁーでも大丈夫やろ。」

「なに?」

「多少の”予想外”、”想定外”をカバーできんようじゃー戦士としてはまだまだ三流。それに言ったやろ、”そんなやわな育て方は”してないでぇーってな。」


シーラがそう言うと、同時に、山の方から怪物の喘ぐ声が響き渡る。


「まさか…」

「嘘だろ…」


そう、村で騎士団の二人とシーラが話しているさなか、ニヒツは引っ張られる足を軸に回転し…


(《卯月無刀流》…《鏡開き》ぃぃぃ!!!)


心の中の叫びと共に、回転させたニヒツの全身と共に海の中で大きな渦潮が発生。


「びぎゃゃゃ!!!」


その渦潮に巻き込まれ、モンスターはニヒツと共に遥か上空へ…


「よっと…なんとかなった…」


その勢いのまま地上に出ると、目の前にいたのは…


「《ケルピー》…ですか…」


ケルピーとは、広い水辺に生息し、そこに落ちた者の足を引っ張って深海へと運び溺死させるモンスターである。


「さっきの力、ただのケルピーではありませんね。」

(その通りだ、人間…)

「え!?」


ニヒツが問いかけると、なんと驚くべきことに目の前のケルピーが人の言葉を話したではないか。


(案ずるな、音ではなく心に問いかけておるに過ぎん。)


そう、目の前のケルピーは通常と異なり、高度な魔術を覚えた賢きケルピーだったのだ。


「それで…あなたのあの力は?それになぜここに…」

(質問か、人間。よかろう答えてやろうではないか、寛大な御心に感謝するがいい。)

「あ…ありがとうございます。」


何だか意外と話が通じる奴で、内心すこし動揺しているニヒツであった。


(まず一つ、この力は”四大宝具”の一つ、《底なしの壺》の能力によるものだ。)

「四大宝具?底なしの壺?」

(なんだ、お前四大宝具もしらんのか?)

「すみません…」


ニヒツは自身の知識不足を自覚し、自身の後頭部に手を置いて少し頭を下げて「いやいやどうもすみません」的な態度を取る。


(まぁーよい、四大宝具と言うのはかつて世界を統治した最上位種族”天人”の精鋭部隊。ガーディアンが持っていたとされる四対の伝説武器の事だ。)

「あぁーなんか昔、本で見たことがある気がします。確か《閃光の槍》と《希望の剣》、《運命の石》と…」

(《底なしの壺》じゃ、なんだ知っておるではないか。なら”5番目”の宝具のことは?)

「五番目!?四宝具なのに?」


ケルピーは突如として衝撃の真実を口にする。


(それは《黄泉の棍棒》、触れた死者を蘇らせることのできる武器だ…)

「へぇー…そんなものが…」

(そしてそれを持っていたのが、今は亡き我が主、”オーク・ロード”様だ…)

「へぇーなるほど…って、え!?」


再び、ニヒツの脳に電流が走る、なぜならその言葉が確かならば…


「じゃーオーク・ロードは…もう…」

(あぁー、もうこの世にはおらん…)


その真実を聞いて、ニヒツはとある疑問が浮かび上がる。


「でも一体誰に?」

(15年前、”純白の鎧”を着た騎士の手によって討伐されたのだ。)

「じゃー、なんでまだ依頼書が…それに持っていたって…」

(依頼書の事はしらんが、騎士達の目的はわかる…”宝具”を狙ったんだ。)

「なるほど…神の宝具を回収できれば、他国への抑止力となる…」

(人の考えは分からん…しかし、何も悪さなどしていない、我々はただ平穏に暮らしていただけなのだ。宝具を持っていただけで…)


ケルピーの発言から、なぜ彼女が自分に話かけて来たのかを察した。


最初の襲撃は、かつて騎士団達に攻め落とされたことで芽生えた強い防衛本能が故であり、決して悪意はなかったこと。


そして、ケルピーがニヒツに話しかけた理由は事情を知って理解してもらおうとしたのだろう。


「わかりました…僕はこの件から手を引きます。」

(良いのか?)

「何がです?」

(気が付いているのだろう、上の階にいる…)

「”元オーク・ロード”のお子さんの事ですか…良いんですよ。この手配書のモンスターは死んでいる。20年前なら辻褄が合いますし、それに…」


ニヒツはケルピーに背中を向け、遠くを見つめて…


「敵意のない人を、気づ付けることはできませんから。」


そう告げて、その場を後にした。


「はぁー、でもどうしたものか…」


しかし当然、オーク・ロードの首が無ければ恐らくあの騎士達は納得してくれない。


困り果てたニヒツの元に一人の黒ずくめの長身の男が近寄り…


「すまない、そこの君。」

「はい、どうしました?」

「悪いんだが、この近くに人間の暮らす村があると聞いてきたんだが…」

「あぁーそれだったら僕の故郷です、帰る次いでに案内しますよ。」


その時、ニヒツは気づいていなかったが、その男のローブの背中に…”騎士団の紋章”がデカデカと書かれていることに…


「もうすぐ日暮れだなぁー…」


そして、ニヒツの帰りを今か今かと待ち構えていた騎士達がついに空を見つけ、完全に太陽が沈む直前。


「すみません、遅くなりました。」


ギリギリ、地平線の彼方へと日が完全に沈むすんででニヒツは帰って来た。


「まじかよ…」

「でもよぉー兄貴、あいつ…手ぶらだぜ…」


ピアスの騎士が言う通り、ニヒツは確かに手ぶらだった。


しかし…


「待て…ジーベン。あの黒いローブは…」

「ありゃー”暗黒の黒塵団”の団員服ですね。でもどうしてこんな所に…」


二人の騎士は、ニヒツと共に近づいてくる黒いローブの男を注視しつつ、赤毛の騎士は何かに気づいた様子で急ぎその場から立ち去ろうとする。


「どうしたんすか兄貴、そんなに慌てて…」




【そうだよ、”ホープ”くん。ゆっくりしていきたまえよ…】




その声を聞いた瞬間、手ぶらで帰って来たニヒツを指さして笑ってやろうとにやけていた表情が一変…


「「ヒュース団長…」」


その表情は青ざめた者へと変わっていた。


「やぁーやぁー、こんな所でこんな時間まで一体なにを?」

「えぇーと税金の徴収でやすよ、団長。あっしら、この地区の担当なんで…」

「そうか、それで一つ聞きたいことがあるんだがこれは…」


そう言って、ヒュースが懐から取り出したのはこの村の名前と”税金”と村長さんの大きな字で書かれたぐちゃぐちゃの”封筒”だった。


「本来税金含め支払いは今時”携帯ドローン”での電子決済が主流だから。普通はあり得ないことだが、この村のような小さな集落では時々技術が渡っていないこともあってこう言う承知を取らざるを得ない場合もある。それは承知しているね?」

「「はい!十分理解しております!」」

「そうか、ならば再び問うか…私がここに来るまでに最後に立ち寄った街の”ゴミ箱”で見つけたこの封筒はなにかね?」

「「え…えぇーと…」」


この事件の真相はこうだった、赤毛とピアスの騎士団員は後の残りにくい現金手渡しのこの村の存在を知り、人気のない辺境への出張を自ら立候補し、その金を使って街で遊び歩き、金が尽きたら辺境の地での適当な任務を引き受けそれを消化するついでに金を巻き上げ再び街へ…


「はぁー…貴様ら…」

「「ひゃ!ひゃい!」」

「騎士として、いや人として…【恥を知れ】」


二人の騎士団員はその殺気に当てられ気絶、ヒュースの剣で開かれた空間の穴に放りこまれ本土へと強制帰還されたのだ。


「その魔力…まさか貴方様わぁ!」


村長が空間に亀裂を入れたその剣の力を見て、何かを察して驚く。


「そう言えば、あの二人が団長って…もしかして騎士団長様だったんですか?」

「バカ!ニヒツ、このお方はただの騎士団長ではなぁい!」

「え?」

「知っとるで、世界主要五大国各国それぞれにたった一人、その国最強の騎士にのみ与えられる称号…”王の五剣”。」

「王の五剣ってことはつまり…ヒュースさんは…」

「触れた一切を黒い塵に帰る《暗黒剣》を背負った、妖精の国ジュエリー帝国最強の騎士…”黒騎士ヒュース・コール様”。」


村長がおののいた理由がこれだ、強者を求めるシーラが笑っている理由がこれだ。


まさか自分に道を尋ねて来たその男が、まさかまさかこの国で一番強い存在であったとは、夢にも思わなかっただろう。


「そんなに気を張らないでください、こちらは謝罪をする立場なのですから。…このたびは、我々騎士団のものが皆さまの生活を脅かし、あまつさへ暴力を振るい、若き命を散らそうとしたこと…深くお詫び申し上げます。」


そして今、この国最強の男がその頭を深く深く下げてこんな辺境の地に住む妖精ですらない異種族の下民に全力で謝罪をしている。


当然、村の人々も村長もヒュースに気を使い、頭を上げてくれるよう言うが…


「いえ、そうは行きません。我々は決して許されざる行為をししまった、人々を護るための騎士が人々を危険にさらしてしまった…これだけの罪、怪我人の手当は勿論、どんな償いも受け入れる所存です。」


ヒュースの意志は固かった、ニヒツはその姿を見て気づいた…この人こそ、おばあちゃんの言っていた「強くなっても、優しく」を体現している人物だと。


それに気づくと同時に、ニヒツは無意識に彼に憧れるようになっていた。


それを見ていたシーラが一声…


「そうかい、ほんなら黒騎士さんよ。」

「はい、何なりと…」

「うちのわっぱを”騎士”にしてやってくれへんか?」

(!?)


その言葉に、先ほどまで決して顔を上げず目をつぶっていたヒュースの目が見開き体を上げてニヒツの方を見つめる。


「君を…」

「こいつなぁー、騎士団相手にメンチを切りおった上に、モンスター一匹倒したんよ。」

「本当か?それは…」

「はい…一応…」

「あの洞窟のモンスターと言えば…まさか”ケルピー”をか…」

「はい…」


ケルピーの全長は20m、その依頼レベルはオークと同様の災害(ディザスター)。


もし今の話が本当なら…


「いいでしょう、”魔法騎士団学校”へ、私が推薦状を出しましょう。」

「「やったぁ!!!」」


その言葉を聞いて、状況についていけてないニヒツをよそに、周囲の住民が「やったぁ!」と喜び叫ぶ。


「何をボーとしとんねん、アホぉ弟子がぁ!」


状況を理解できずにいるニヒツの頭を、軽く小突くシーラ。


「ほれ、これやるさかい、ちゃんと喜びなはれや。」

「これって…」


それはシーラの常に腰に差してあった、青い刀。


「名は月光刀・青月(ゲッコウトウ・セイゲツ)」

「セイ…ゲツ…いいんですかぁ!?本当に…」

「何を疑っとんねん、ちょいと早めの入学祝いや、絶対落ちんなよ。」

「はい!」


こうしてニヒツは、多くの試練を乗り越え、ついに魔法騎士への一歩を歩み始めるのであった。

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